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Wednesday, February 12, 2014

おすすめ論文紹介 - Unusual thermal defense by a honeybee against mass attack by hornets

今日は個人的に好きな論文を紹介します。

Title: Unusual thermal defense by a honeybee against mass attack by hornets
Authors: Masato Ono, Takeshi Igarashi, Eishi Ohno & Masami Sasaki
Nature Vol. 377, 334 - 336 (1995)



ニホンミツバチがオオスズメバチを撃退することができることについては知っている人も多いと思います。時々サイエンス系のテレビ番組などでも見かけることがあります。

ミツバチとオオスズメバチの体格差 攻撃力の差は歴然で30匹ほどのオオスズメバチがいれば3万匹のミツバチを数時間のうちに全滅させてしまうといいます。養蜂に使われるセイヨウミツバチはオオスズメバチの集団に襲われるとなすすべもなくやられてしまい、巣の中の幼虫や蛹などを食料として奪われてしまいます。

一方でニホンミツバチはオオスズメバチの大群にはかなわないものの、斥候として単独で偵察にやってきたオオスズメバチを大勢の働き蜂で打ち取ることで大群の襲来を未然に防ぎ、自分たちの巣を守ります。本論文は20年ほど前に書かれた論文で、上記のニホンミツバチの有名な習性と撃退のメカニズムを世界で初めて報告しました。

本文は刺激的な記述から始まります。


まず単独のオオスズメバチが狩りをする様子から始まり、大群を形成しミツバチの巣が全滅するまでの過程までが記述されます。

「単独のオオスズメバチは狩りを行い、個々のミツバチを獲物として巣に持ち帰る。
同じ場所で狩りを続けるうちこの場所にフェロモンで印をつける。
他のオオスズメバチがフェロモンに引き寄せられこの狩場にやってきて個々のミツバチを狩始める。
オオスズメバチが同じ狩場に複数集まると突如単独の狩りを止めその場で大顎を使いミツバチを殺し始める。
ミツバチが全滅した後、空になった巣を占領し(10日ほど続く)巣の中の幼虫と蛹をエサとして自分たちの巣へ持ち帰る。」

論文中では20-30個体のオオスズメバチによって3万匹のセイヨウミツバチが3時間で全滅するとあります。1匹のオオスズメバチが1分間に40匹のミツバチを手にかける(顎にかける)らしいです。

ニホンミツバチがオオスズメバチを撃退することはこの論文以前から指摘されていたようですが、ミツバチが針でスズメバチを指すことで仕留めていると思われていたようです。一方で著者らは数年間の観察によってミツバチが針を使って撃退しているのではないことを突き止めました。

ではどのように撃退するのでしょうか。

オオスズメバチの接近を感知すると働き蜂は集団での防衛態勢に入ります。まず巣の前で威嚇したのち一斉に巣箱の中に戻り、入り口のすぐ内側で待機します。偵察に来たオオスズメバチが巣箱に侵入するや否や待機していた働き蜂が一斉に飛びかかりスズメバチを取り込んで500匹からなる塊を作ります。


針は使っていないので掌にのせても刺されない。右は塊の中で息絶えたオオスズメバチ。

塊を作ったミツバチは熱を発し急激に内部の温度を上げて行き、その温度はすぐに47℃にまで達します。塊の中心にいるスズメバチが堪えることができる温度は46℃、ミツバチの堪え切れる温度は50℃。
この温度の違いにより塊の中心にいるスズメバチは熱により蒸し殺されます。冒頭の写真はこの時の温度をサーモグラフィーで撮影したものです。

オオスズメバチが複数集まり次々に襲ってくると対処が不可能となり巣を守れないこともあるそうです。
つまりまだスズメバチの数が少ないうちに行動することが巣を守るうえでとても重要となります。

ミツバチが防御のための攻撃反応を行うためにはオオスズメバチが印をつけるために出すフェロモンが重要です。このフェロモンによってニホンミツバチの防御行動が誘起され集団での反撃へとつながります。

一方で個々のオオスズメバチにとってもニホンミツバチの巣への攻撃は場合によっては死を伴う危険な行動です。しかしながらオオスズメバチは自分たちのコロニーを維持するために食料を確保しなければならないという必要性から進化の過程でハイリスクな狩りという行動を行うようになったのだろうと筆者らは推測しています(オオスズメバチの集団での攻撃は野外にエサがなくなる秋に多いそうです)。

さらにその一方でニホンミツバチもオオスズメバチによる攻撃に対抗して種を存続させるため、オオスズメバチのフェロモンに誘起される防御システムを共に進化させて来たのだろうとも推測しています。

種の存続と繁栄という生き物にとって至上の命題をかけた攻防によって個体の自己犠牲を伴う洗練された行動システムが進化してきたのだと考えるととても感慨深いですね。

この論文によると他の種類の蜂(アシナガバチの一種)ではオオスズメバチのフェロモンを感知すると巣を離れコロニーごと他の場所に避難する種類もいるそうです。

 「反撃することなく巣を離れ、二度と元の巣に戻ることはない。コロニーを分け、巣を再建し、再び子を育て始める。」


 ちょっと小説的な文章でこの論文は結ばれます。

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