Wednesday, June 11, 2014

コンピテントセルの作成




これまでにDNAの切り出しやT-ベクターへのライゲーション、プラスミドを取り込んだ大腸菌から直接PCRを行いインサートの長さをチェックする方法、などを説明してきました。

今回はプラスミドを取り込ませるための大腸菌、いわゆるコンピテントセル (competent cell)の作り方を紹介したいと思います。



"Competent cell"の日本語訳はないなと思っていたら、Wikipediaには「形質転換受容性細胞」と書いてありました。しかしながらこの呼び方をしている人は殆どいないと思います。個人的にも「コンピテントセル」以外の呼び方をしたことはありません。おそらく"competent"という英単語を直接日本語の単語に置き換えることが難しいからだと思います。

翻訳の難しさはさておき、コンピテントセルというのはほとんどの場合にはプラスミドを取り込みやすいように調整した大腸菌のことを指します。

コンピテントセルには大きく分けて"electrocompetent cell"と"chemically competent cell"の2つがあります。electro~のほうは電気刺激によってプラスミドの取り込みを誘導し、chemically~のほうは温度刺激によって取り込みを誘導します。

特別な装置が必要なelectrocompetent cellに比べchemically competent cellの方は温度刺激を与えるためのウォーターバスがあれば良いので多くの研究室で使われているのではないかと思います。今回紹介するのもchemically competent cellの調整方法です。僕は以下のようにして調整しています。

[必要な試薬・器具]
大腸菌(研究室で使用するもの。以前のコンピテントセルの残りで良い。種菌として使います。)
LB-プレート(抗生物質不含) 1枚
SOB液体培地 (オートクレーブ滅菌。250mL程度用意しておきます。)
トランスフォーメーションバッファー (TB、作成方法は末尾)
Dimethyl sulfoxide (DMSO)

液体窒素(Day4 で使用)
液体窒素を短時間入れておける専用の箱、または分厚い発泡スチロール製の箱。
50mL 遠沈管を使用できる遠心分離器
吸光度チェック用の装置およびキュベット
穴あきお玉(金属製など液体窒素につけても大丈夫なもの)
アルミホイル (またはフラスコの口を塞ぐ蓋)
1L 三角フラスコ 2個
50mL 遠沈管 3つ (滅菌してあるもの)
培養用シェーカー(37℃及び18℃に設定できるもの)
37℃ 恒温槽(インキュベーター)(LBプレート培養用)
25mLおよび10mLピペット(使い捨てのもので良い)
作成したコンピテントセルを冷凍保存するための容器(紙の箱や厚手のポリ袋等で良い)
保存用-80℃ディープフリーザー
100uLが分取できるマイクロピペッター(ピペットマン等)とチップ
1.5mL マイクロチューブ たくさん

穴あきお玉

準備
1L 三角フラスコ2つをオートクレーブ滅菌します。口はオートクレーブ前にアルミホイル等で塞いでおき、オートクレーブ後もそのままにしておきます。

LBプレートに大腸菌をストリークして37℃で一晩培養します。培養後コロニーが分離できるように薄く撒きます。培養後のプレートは4℃で保存しておきます。すぐにDay1の操作を始める場合はそのまま保存せずに使用します。

Day1
50mL遠沈管の1つにSOB培地を5mLとります。準備で作成した大腸菌のプレートから3コロニー程度を掻き取り遠沈管内のSOBに懸濁。遠沈管を立てたまま130rpm程度の速さで振盪しながら37℃で一晩培養します。

Day2
なるべく午前中に以下の操作を行います。滅菌しておいた2つのフラスコにSOB培地を100mLずつ分取します。それぞれのフラスコに50mLチューブで一晩培養した大腸菌液を150uL(フラスコNo.1とします)または100uL(フラスコNo.2)加えます。2つのフラスコを110rpmの速さで浸透しながら18℃で培養します。

Day3
この日は何もすることがありません。

Day4
吸光度計を使用して600nmの波長の吸光度を測ります。キュベットに培養中の大腸菌液をフラスコから少量分取して測定します。キュベットの大きさによって必要量は違います。多くのキュベットは1mL容です。

それぞれのフラスコの菌液の吸光度を測ります(No.1フラスコのほうが高いはず)。対照としては菌が入っていないSOB培地を使います。培養を続けながら時々吸光度を測定し、吸光度が0.4~0.6の間になるくらいまで振盪培養を続けます。

No.1が調度良い吸光度になったらこちらを使います。うっかり吸光度が0.6を超えてしまった場合はNo.2のフラスコを使います。培養をやめて氷上で10分間冷やします。TBも氷で冷やしておきます。

遠心分離機を4℃にセットしておきます。

(以降の操作中は大腸菌を温めてしまわないように注意して行います。)

フラスコの菌液を50mLチューブ2本に均等に分けます。
4℃、1000xg (3000rpmくらい) で10分間遠心分離します。

SOBを捨て、それぞれのペレットを16.5mLずつの冷TBで懸濁します。
氷中で10分間冷やします。
4℃、1000xg (3000rpmくらい) で10分間遠心分離します。

TBを除き、ペレットを新たな冷TB 4mLずつで懸濁します。
DMSOを300uLずつ加えて素早く混ぜます。氷中で10分間冷やします。

こんなかんじで液体窒素中からチューブをすくいます(写真の液体は水です)。

液体窒素を用意します。液体窒素専用の箱(ない場合は分厚い発泡スチロールの箱)に液体窒素を1~2cmくらいの深さで入れておきます。

注意!!:液体窒素の取り扱いには細心の注意を払ってください。大怪我の原因になります。使用後は間違っても流しに流さないように。排水管を破損します。適切な処理方法は研究室の責任者に聞いてください。

1.5mLチューブに菌液を100uL分注し、蓋を閉めたら素早く液体窒素中で冷凍します。凍った1.5mLチューブはそのまま液体窒素中に放置し次の1.5mLチューブの分注操作に移ります。

菌液をすべて1.5mLチューブに分注、冷凍します。

終わったら液体窒素の中のチューブをまとめて穴あきお玉ですくい取り、保存用の箱、または厚手のポリ袋に入れて-80℃のディープフリーザー中で保存します。(すくい取る前に穴あきお玉も液体窒素中で短時間冷やします。)

1.5mLチューブ80本以上できます。

1つの50mLチューブから42~43本くらいのコンピテントセル入り1.5mLチューブができるので2本ある50mLチューブから80本以上のコンピテントセルのストックが出来ます。

1.5mLチューブへの分注操作と冷凍操作はなるべく短時間で行ったほうが良いので2人くらいで共同作業すると手早く済みます。手が開いている人にたのんでみましょう。

使用しなかった方のフラスコの大腸菌は廃棄してもいいのですが、No.1のフラスコからコンピテントセルを冷凍保存するうちにNo.2のフラスコの大腸菌がちょうど良い増え具合になっているので、時間があるときにはこちらのフラスコの大腸菌もコンピテントセルとして保存しましょう。

Transformation Bufferは以下のように作成します。

200mL作成時            終濃度    
PIPES            0.6g           (10mM)
CaCl2・2H2O      0.44g              (15mM)
KCl              3.72g             (250mM)

1L作成時               終濃度
PIPES            3g           (10mM)
CaCl2・2H2O      2.2g           (15mM)
KCl             18.6g           (250mM)

これらを190mL (950mL) の水 (ddH2O) に溶かし、pHを水酸化カリウム (5N KOH) で6.7~6.8に合わせる。MnCl2・4H2Oを 2.18g (10.9g) (終濃度55mM) 追加した後、水を追加し全量を200mL (1L) に合わせる。フィルター滅菌 (0.22μm) した後、50mLチューブに41mL(またはそれ以上)ずつ分注して4℃にて保存します。

コンピテントセルは一度大量に調整しておくとしばらく使えます。うまく作ると販売されている製品と同等の効率のものができます。日数と手間はかかりますが、頑張って作りましょう。

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