Thursday, July 10, 2014

New England Biolabs


きまぐれメーカー案内 その1
New England Biolabs (NEB)

”N.E.B.! N.E.B.!”

分子生物学の実験には様々な試薬が必要になります。DNAを切ったり貼ったりするための制限酵素やライゲーション酵素、またはPCR反応を行うためのポリメラーゼなどなど、数え上げたらきりがないくらい色々な試薬を使います。皆さんの研究室の冷凍庫にもこれらの試薬がたくさんあると思います。

今回の記事では個人的に気になった試薬メーカーを気まぐれに紹介したいと思います。


New England Biolabs社(以下NEB)はアメリカのマサチューセッツ州に本拠を置く試薬メーカーです。特に制限酵素やDNAポリメラーゼ、ライゲーション酵素を始めとするDNA修飾酵素を数多く販売しています。

NEBは自社の研究部門で積極的に研究開発を行っており、論文も学術誌に数多く発表しているようです(NEBのウェブサイトによると現時点で826報を数えるほどだそうです)。その研究成果をもとにいろいろな製品を生み出しています。

個人的には特にここ2、3年で当社の試薬をよく使い始めたのですが、試薬の多様さもさることながら、安めの値段設定やカタログ、ウェブページの充実など研究にいろいろな方面で役に立ってくれるメーカーです。以下ではNEBの気になる製品とWebサイトについて見てみましょう。

まずは制限酵素とDNAポリメラーゼについて注目してみます。

制限酵素について言えば僕はTAKARAの制限酵素ばかりを使っていました。TAKARAの制限酵素はほとんどがL, M, H, K, Tの5つのバッファーのどれかを使って反応させるようになっており(L-Hはlow, medium, highの頭文字で塩濃度のこと。Kはカリウム塩入り。Tはよくわかりません)、バッファーと制限酵素のチューブキャップはバッファータイプごとに色分けしてあるのでどの酵素にどのバッファーを使うべきかが一目瞭然です。

個人的にはこのわかりやすさが大好きで長い間制限酵素はTAKARAの製品一択でした。

NEBのバッファー。キャップのの色分けはなく番号のみ。

NEBの制限酵素もバッファーごとに色分けがしてあるですが側面のラベルに細い線で色分けしてある程度なので冷凍庫の中で薄く霜をかぶった状態のチューブでは何色なのかが判別できないのが難点です。

側面に細い線で色分けされている。

しかしこの問題もいずれ解決されるでしょう。なぜならNEBは1種類のバッファーでどの制限酵素でもまかなえるようにバッファーと酵素の改良を行っているのです。NEBではこのバッファーをCutSmartバッファーと呼んでおり、酵素に添付したりバッファーのみで販売したりしています。


さすがに全ての制限酵素を1種類のバッファーでという訳にはいかないようですが、現在のところNEBが販売している276種類の制限酵素のうち200以上がこのCutSmartバッファーに対応しているとのことです。

CutSmartバッファー対応の酵素を使うと特に2重消化(double digestion)を行うときに便利です。同じバッファーに2種類の酵素を混ぜて反応させ同時に2箇所の切断を行えるので、これまでのように最初の酵素反応を 終えてDNAを精製した後で2つ目の制限酵素反応を行う、というステップを踏まなくて良くなるため実験を効率よく行えます。

CutSmartバッファーの組成にも工夫があったのだと思われますが、それだけではなく酵素の方もバッファーに適応するように遺伝子配列(つまりは酵素内のアミノ酸配列)にも変化を加えてあるそうです。NEB内の研究室で日夜改良が行われているのでしょう。

ハイ・フィデリティー(高正確性)タイプの制限酵素

制限酵素によってはハイフィデリティ―(高正確性)タイプのものがあり(例えば「BamHI-HF」などと表記してあります)、非特異的な配列を切ってしまうスター活性 が低減されています。これも酵素の配列を変えることで正確性を高めていると思われます。

HFタイプのものは全てCutSmartバッファー対応なので扱いが簡単です。今後はHF酵素及びCutSmartバッファー対応の 酵素がさらに増えてくると思われます。

うちもそうですが、研究室によってはすでに他社の制限酵素をたくさん持っているところもあるでしょう。僕も今のところTAKARAの制限酵素を多く持っていて全体の2/3がTAKARAで残りの1/3がNEBの制限酵素という構成です。

その場合他社製の酵素を混ぜて使えるのかどうかが悩みどころだと思います。個人的に試した結果だとNEBの酵素がCutSmartバッファー対応ならば他社の同種の酵素もCutSmartバッファーを使っても大丈夫なようです。とりあえずやってみたらうまくいきました。

Re-Mix酵素。電気泳動用の色素も添加済み。

制限酵素に関してはこの他にNEBではRe-MIX酵素というのも販売しています。これはバッファーと酵素、及び電気泳動用の色素を含んだ2倍濃縮のプレミックスタイプの製品です。DNAと水を加える事で直ぐに反応を開始できます。

しかしながらRe-MIX酵素とCutSmartバッファーの使い分けがなかなか難しいというのが個人的な感想です。それぞれの酵素に対してRe-MIXタイプとCutSmartバッファー用タイプを別に揃えることは(予算的に)難しいので僕はCutSmartバッファー用のものを主に使っています。

Re-MIXタイプの酵素は同じ制限酵素を使ってルーチンに反応を行う場合に特に威力を発揮すると思われます。時々複数の酵素のセット販売キャンペーンを行っているのでその時に買うのがよいでしょう。

Re-MIXタイプにかぎらずNEBはよくキャンペーンを行っています。もともと値段設定が比較的安いのですが、更に安く購入することができるので使用頻度が高い酵素などはその時にまとめ買いをするのがおすすめです。

ちょっと長くなってきたので次回以降に続きます。


ご質問はゲノム研究分野まで。
内線: 3171
e-mail: mgrc@gifu-u.ac.jp

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