Friday, December 27, 2013

ピペットマン


最もシェアの多いマイクロピペッターはギルソン(Gilson)のピペットマンだそうです。聞いたところではシェアの半分以上を占めているということです。ピペットマンはマイクロピペッターの代名詞みたいなもので他社製品のピペッターでもピペットマンと呼ばれてしまうくらいです。みなさんの研究室にも数本はあるのではないでしょうか。

ギルソンのピペットマンの特徴は比較的重い重量とこれまた重いストロークだと思います。僕の好みは重量もストロークも軽いピペッターなのでピペットマンはあまり好みではありません。しかしながらピペットマン愛用者はその重みがないと使っている感じがしないそうで、軽いピペッターは嫌だそうです。皆さんの好みはどうでしょうか。

今回から数回に渡って軽いピペッター愛好者の僕が独断でピペッターの批評をしようと思います。独断なので軽いピペッターが良い評価となりますので重めが好きな人は僕の判断を逆に解釈してください。

でははじめましょう。

エントリーNo.1
Gilson Pipetman

Tuesday, December 24, 2013

ライゲーション



DNAのライゲーションはうまく行くときは行くし、うまくいかない時は何故かうまくいかないという場合がよくあります。

ライゲーションには主にT4 DNA Ligaseを使います。メーカーによっては効率を上げるためにバッファーを工夫していたり、より簡便な操作のためにマスターミックスとしてバッファーと酵素が予め混合された製品を販売している場合もあります。T4 Ligase以外ではトポイソメラーゼをベクターに付けてライゲーションを行うキットも有ります。

どのメーカーの酵素を使うかはそれぞれの人の好みによるところが大きいです。うまくライゲーション反応が起こればそのメーカーの製品を買い続ける事が多いので、うまく行かなくなるリスクを取って他のメーカーの製品に乗り換えることは少ないでしょう。一方でうまくいかない時は他のメーカーの製品を幾つか試すことになるため、冷凍庫の中に複数のメーカーの製品を持っている研究室も多いと思います。

僕はNew England Biolabs(NEB)社のライゲーション酵素を使っています。NEBの製品は価格が比較的安く、品質も安定していると思います。他のメーカーの製品を使っていた時はLot差があったり保存中に活性が大きく下がったりする事がありました。Ligaseは結構不安定な酵素なのかもしれません。

今回は個人的によく使っているLigaseとT-ベクターへのPCR産物ライゲーション反応のプロトコールの紹介です。

Wednesday, December 18, 2013

SONY製セルソーター・アナライザー説明会

昨日18日と今日19日はゲノム研究分野でセルソーターとセルアナライザーの講習会を開催しています。9月の終わりに導入した新しい装置です。

SONYライフサイエンス事業部門からサービスマネージャーの小林さんに来ていただき、本装置の詳しい操作方法についてご紹介いただきます。また、測定方法についての質問にも丁寧にお答えいただいています。

おかげさまで2日間とも予定人数は満員となりました。来月もまた同じ内容の講習会を開催する予定ですので、まだ講習会を受けられていない方はぜひご参加ください。

近いうちにゲノム研究分野ホームページなどで詳細をお知らせいたします。
かっこいい機械なのでぜひ一度見てみてください。

Friday, December 13, 2013

T-Vectorを使ったサブクローニング



(追記: 方法の改訂があります。詳しくはこちら→スーパーTベクター
 
皆さんはDNAのクローニングやってますか?PCRで増やした遺伝子をプラスミドベクターに入れる実験はよく行われる実験手法だとおもいますがトラブルもつきものです。

クローニングしたいDNAがベクターにうまく入るかどうかはほとんどの場合、使用するベクターと使っているDNA ligaseの良し悪しで決まっていると思います。

お金のある研究室では市販のキットを使っている所も多いでしょう。僕も以前在籍した研究室ではInvitrogenのTOPO Cloning Kitを使っていました。このキットはDNA ligaseは使わずにベクターの末端に付いているトポイソメラーゼによって効率よくDNA断片をベクターに繋げるキットです。

平滑末端をクローニングできるタイプも有り、かなり高効率で目的DNAをベクターに入れることができるのでこのキットを使っているときはクローニングで悩むことはほとんどありませんでした。

しかし!このキットはかなり高額で、1回の反応が2000円ほどします。そんな贅沢を続けられるわけもなく、今は自作のクローニングベクターを使っています。

今回はPCR産物をクローニングするためのベクター(T-vector)の作り方を紹介したいと思います。

Saturday, December 7, 2013

SONY EC800 セルアナライザー

ゲノム研究分野 共同利用機器紹介-(6)

もう1つのSONY、職人気質のセルアナライザー EC800


以前紹介したSONYのセルソーター(SH800)と同時期にもう一台SONYの機器が導入されました。セルアナライザーと呼ばれるこの機器はセルソーターと同じくフローサイトメーターに分類される測定機器です。セルソーターは欲しい細胞を分取してくれますが、こちらの機器は分取はせずただひたすらに細胞を分類しカウントします。本装置は4色のレーザーを搭載しており一度に6色の蛍光で細胞を分類できます。

研究の種類によってはソーティングの必要がなく、ある細胞群の中に特定の種類の細胞がどれくらいの割合で入ってるのかを知りたい場合が多くあります。白血病の患者さんの血液中の各血球の割合を知りたい場合などがそうです。ある薬剤を使った場合に特定の細胞が増加した、または減少した、等も調べることができます。実際の研究現場においてはセルソーティングよりもセルアナライジングのほうが多用されます。

この装置、見てもらうとわかりますが前述のセルソーター(SH800)に比べるとずいぶん野暮ったい感じのする外観をしています。SONYの製品にしては無骨なスタイルを持つこの装置は実はSONYがデザインしたものではありません。SONYはフローサイトメーター部門を立ち上げるにあたってアメリカのi-Cyt(アイサイト)社を買収しました。すでにこの装置はi-Cyt社で完成されておりそれをSONYブランドで販売しています。以前デモで本装置をゲノム研究分野に持ってきてもらった時はまだi-Cytのロゴがついていました。

溶液タンクにはまだiCytのロゴが見える。

この機器も前述のSH800と同じく全自動の立ち上げを売りにしています。そもそもセルアナライザーでは細胞の分取が必要ないためレーザーの光軸調整以外の調整は必要ありません。現在販売されているアナライザーの多くはレーザー光軸調整が不要なものが多く、本製品も光軸調整は必要ありません。装置の起動時は全自動で流路が洗浄されるので引き続き感度調整用の付属の溶液(蛍光ビーズが入っている)をセットし自動感度調整を行います。これらの機能はそれほど他社製品と差はありません。

ここにサンプルをセット。40本まで。
蛍光フィルター部。

この装置の一番の売りは複数サンプルの自動測定機能と蛍光感度の再調整機能です。最大40サンプルを連続して自動で測定してくれるのでサンプルをセットしてスタートボタンを押し、そのまま放っておくことができます。測定後に装置のシャットダウンも行うように設定もできます。測定開始後そのまま研究室へ戻り数時間後に戻ってくれば測定が終了して装置内の流路の洗浄も終わり、電源も切れているので自分のサンプルとデータだけを回収して帰るという使い方ができます。忙しい方には時間の節約ができる良い装置ではないでしょうか。

またフローサイトメーターでは蛍光の測定強度を自分のサンプルに合わせて調整する必要がありますが、本装置では画面上の測定範囲よりも幅広い範囲で勝手に測定してくれるので万が一感度の調整が不適切だった場合でも測定後に再調整が可能です(多くの他社製装置では測定時の感度調整が不適切だった場合は測りなおしになります)。特にいつも同様の細胞を同様の蛍光で測定する事が多い場合では、自分の測定条件のテンプレートを予め作っておけば毎回の調整は必ずしも必要でなくなります。これも利用者が測定をすぐに開始できるようにするためによく考えられた機能だと思います。

解析画面。


この装置は無骨な外観ですがセルアナライザーとしての機能はとても洗練されていて、僕はこの装置に無口で人当たりは良くないが腕の良い職人のような印象を持っています。先日履いていた革靴のつま先が靴底から剥がれてしまい、修理に出しました。人通りの多い通りの商店と商店の間に挟まるようにしてあった修理屋の主人は工具でびっしり囲まれた狭い店内から出てきて修理の説明をしてくれました。「うちは接着剤は使わずに縫って直すから時間がかかる、苗字だけおしえて。」といって僕の苗字だけを聞き、僕は支払いをして帰りました。数日後戻ってきた靴はしっかりと綺麗に修理されていました。まったくもって関係ない話ですが、そんな感じの信頼できる装置だと思います。

ゲノム研究分野では専門の職員が本機器のメンテナンスと使用方法の説明を行います。遠慮無くいろいろご相談ください。

設置場所:ゲノム研究棟 3階 306号室 

利用料金:現在のところ無料でお使いいただけます。1月から利用料金(500円/1使用)を頂きます。 

詳しくはゲノム研究分野 管理室まで (内線 3174、Eメール mgrc@gifu-u.ac.jp)         

Carl-Zeiss LSM 710 共焦点レーザ走査型顕微鏡

ゲノム研究分野 共同利用機器紹介-(5)

顕微鏡界のBMW, Carl-Zeissがつくった名機 LSM710



「みんないい車がよければBMWを選ぶだろ。それと同じで顕微鏡ならZeissにするんだよ。」

これは以前僕が所属していた研究室の教授(ドイツ人)が顕微鏡の選定にあたって他社製の顕微鏡を押す研究室のメンバーに対して放った一言でした。予算を獲得してきたのは彼だったこともあり、この一言で結論が出てその時は本装置の姉妹機であるLSM700という顕微鏡を購入することになりました。LSM700, 710共に基本となる構造は同じであるため操作性や得られる画像の綺麗さも一緒です。僕は2年前に岐阜大学に来てLSM710を使い始めたのでかれこれ5年以上Zeiss社製の共焦点レーザー顕微鏡を使っていることになります。その前はBio-Rad社やOlympus社のものを使ったことが有りました。

装置を長く使っているとその設計にメーカーの設計思想(ポリシー)が垣間見えることが有ります。本装置は決して操作が簡単な装置ではありませんし、コンピューター上の操作用ソフトウェアも直感的に使えるようにはできていません。しかしながら装置の堅牢性と顕微鏡の本質である画像の麗美さを追求する姿勢が本装置からはビシビシと感じられます。BMWが堅牢で車の本質である早くて快適な走りを追求するのと似ている気がします(残念ながらBMWを所有したことはありませんが。)。両方ともにドイツのメーカーであることを考えるとドイツ人気質があふれる製品なのかもしれません。

余談から入りましたが、本装置は本当にきれいな画像を取得してくれます。これは装置に使われる対物レンズの性能と蛍光検出器である光電子増倍管[Photo(electron) Multiplier Tube, PMT]の性能に起因します。Zeiss 社はいずれも自社で設計、制作しているそうです。当研究室の本装置に付いているこれらの部品は現在のところ最高レベルの部品であり、サンプルから発せられる蛍光を高い感度で検出してくれます。

共焦点レーザ走査型顕微鏡は蛍光染色した細胞や組織サンプルの観察と撮影を行う装置です。普通の蛍光顕微鏡とどこが違うのでしょうか。通常の蛍光顕微鏡は対物レンズを通してサンプルに光源からの光が当り、励起された蛍光色素からの光を観察します。対物レンズの焦点はサンプルの一点(狭い範囲の一平面)にしか収束していませんが、実際には光源からの光は焦点より前や後ろの構造にも当たるためそれらの部分にある蛍光色素も蛍光を発してしまいます。更にそれらの光は乱反射をしながら観察者の眼に入るため実際には焦点面以外のかなり広い領域からの光を同時に観察してしまう事になり多かれ少なかれぼやけた観察像になってしまいます。

本装置ではこれらの問題を主に2つの機構により解消しています。ひとつはレーザー光源の使用です。特定の波長のレーザー光源は目的とする蛍光抗体のみを光らせるため他の蛍光抗体からの余計な光の混入がありません。またレーザー光は位相が揃っていて光が散乱しないためスポット状にサンプルに光を与えることができます。もう1つは共焦点光学系です。これは対物レンズの焦点位置と連動する小さいピンホールを検出器の前に置き、焦点面以外から発せられた光をピンホールによりカットし、焦点面から出た光のみをピンホールを通過させ検出することでぼやけのない観察像を得る仕組みです。

細胞培養装置。青い線は二酸化炭素ボンベにつながっている。


本装置は倒立顕微鏡を使ったシステム構成となっているためスライドグラスに用意したサンプルはカバーグラスをかぶせ、カバーグラスの方を下にしてセットする必要があります。一方で細胞は培養容器(シャーレ)に入れたまま底から光を当てて観察することができます。高倍率で観察するためにはシャーレの底は薄いガラス製(カバーグラスと同じ厚みくらい)の必要があります。いわゆるグラスボトムディッシュです。6cmと3.5cm径のシャーレに対応しています。通常は固定して蛍光抗体で染色したサンプルを観察しますが、生きた細胞をシャーレで培養しながら GFP(緑色蛍光タンパク)などの蛍光を観察することもできます。温度管理と二酸化炭素濃度管理ができる装置(本装置に接続されています)を合わせて使うことで細胞を培養しながら生きたままの細胞を長時間観察することも可能です。例えば10分間隔で10時間撮影してあとで早回しのムービーにもできます(Zeissによると最大24時間くらいまでは細胞に影響なく観察できるそうです)。

操作画面。


顕微鏡の操作と装置の設定、撮影はコンピューター画面上ですべて行うことができます(顕微鏡の操作自体は付属のコントローラーでも可能です)。ZENというソフトウェアが全てを管理します。このソフトウェア、一度使ってみるとわかりますが画面上に設定項目が多くて最初のうちはどうすればよいのかなかなかわかりません。以前のZeissの顕微鏡は別のソフトウェアを使っていてそちらはそれなりにとっかかりやすい作りだったのでなぜこんなに分かりにくくしたのかと始めのうちは残念に思っていました。し かし操作に慣れた今となってはいろいろな設定を変えて測定できるのは良い画像を得るためには都合が良いと思えるようになりました。この辺りにも『追求すればするほどよい物が得られるが、敷居は高い。ついてこられるものだけついてこい。』という設計思想が見えているような気がします(違ったらすみません、Zeissさん)。

まあとにかく抜群の画像が得られることだけは間違いありません。僕はこの装置がゲノム研究分野で管理している装置の中で一番好きです。共焦点レーザー走査型顕微鏡で撮影した画像は一発で見た人を納得させるだけの綺麗さと説得力を持っています。「研究はアートだ。」という人がいます。その意味合いは人それぞれなのですが、本装置で撮影した写真は間違いなくアートだと言えます。論文の中で長々と説明を繰り返すよりも、一枚の写真が全てを説明してしまいます。本装置は同種の製品の中でも最高クラスの性能を持っています。この装置を使わない手はありません。本装置に馴染みのない方にはゲノム研究分野が使い方の説明をいたします。ぜひとも本装置をおつかいいただき、論文中にアートとなる1枚を飾ってください。お待ちしています。

設置場所:ゲノム研究棟 4階 402号室

利用料金:1000円/1使用

詳しくはゲノム研究分野 管理室まで (内線 3174、Eメール mgrc@gifu-u.ac.jp)     

ゲノム研究分野所蔵書籍

ゲノム研究分野 共同利用機器紹介 番外編 

所蔵書籍




ゲノム研究棟2階廊下の西側端に本棚があります。実はあの本棚にある雑誌は自由に閲覧してもらうことができます。2週間の貸出しも行っています。理化学系の雑誌を毎月定期購入していてタイトルは以下の5種類です。

細胞工学

実験医学(増刊号含む)

遺伝

現代化学

日経サイエンス

2階にはDNAシーケンサーを始め多くの共同利用機器があるので2階に来られる方も 多いと思います。時間がある人は立ち寄って見てみてください。閲覧用の椅子と机もおいてあります(冬場は寒いかもしれませんが)。貸出しを希望される方は 貸出記録簿に必要事項を書いた上で借りることができます。ゲノム研究分野の利用登録を予めしていただいている必要があります。

ちょっとわかりにくいですが2階廊下の突き当たりにあります。

僕の専門は生物学(発生学)な ので主に細胞工学と実験医学をよく読んでいます。僕が学生だった時は(何年前だ?)通っていた大学の図書館にこれらの雑誌はなかったので近くの本屋で発売 日を待ってよく立ち読みをしていました。専門書籍に比べるとそんなに高額な本ではありませんが、学生の身で気軽に毎月購入できるほど安価でもありません。 しかしながらこれらの雑誌からは専門書にも負けず劣らずの重要な知識を得ることができます。最新の情報はこれらの雑誌からのほうが早く得ることができます。

細胞工学から遺伝までの4つの雑 誌の購読対象者は主に大学院生以上の学生と研究者です。ある程度専門的な知識を得た後のほうが雑誌の中身を理解しやすいと思います。しかし最近は読者層を 広げるために専門用語の解説も充実し、入門的な内容も増えてきているようなので学部生の皆さんにも読みやすい雑誌になっていると思います。

バックナンバーもたくさんあります。

難しい専 門書はなかなか読み進められませんが、上記の雑誌は紙面や内容が工夫してありとても読みやすくできています。おすすめはこれらの雑誌を定期的に読みながら 専門書を読むことです。雑誌から得た知識を元に専門書がとても読みやすくなると思います。ゲノム研究分野では機器の利用だけではなく、知識の面でも皆さん の研究をサポートするべくこれらの雑誌を購入しています。是非ご活用ください。



設置場所:ゲノム研究棟 2階廊下 西側突き当り

利用料金:無料

詳しくはゲノム研究分野 管理室まで (内線 3174、Eメール mgrc@gifu-u.ac.jp)

安井器機株式会社 MB455GU(S) ホモジナイザー

ゲノム研究分野 共同利用機器紹介-(4) 

すりつぶす以外に何がある? マルチビーズショッカー MB455GU(S)



あまり自分で使い込んでいない装置のことを書くとボロが出てしまうので嫌なのですが、早く紹介したい装置なのでボロを出しながら書きます。本装置の用途を長々と説明する必要はありません。この装置、とにかく組織をとことん細かくすりつぶす機械です。

もう特に伝えたいことはなくなりましたが、がんばってもう少し書きます。本装置はどれくらいの強さですりつぶすかを設定により変えることができます。あとすりつぶす時間の長さも変えることができます。

これ以上この装置について何を語ることがあるだろうか。絞り出してみます。この装置は冷却装置と一緒に使うことで低温ですりつぶすことができます。したがって成分が分解してしまうのを抑えることができます。

考えれば出てくるもんですね。そういえばすりつぶすためにはマイクロチューブに入ったガラスビーズやジルコニアビーズを使います。一度に2mLチューブなら6本セットできます。僕はジルコニアビーズを使っています。ちなみに日本ジェネティクスが販売しているジルコプレップミニというやつです。

凍結したゼブラフィッシュの組織を脂質抽出のために有機溶媒中で2,500rpmで30秒間すりつぶしました。こなごなでした。脂質はきちんと十分な量が抽出できました。以上が僕が本装置を使った全てです。何rpmにするか、何秒にするかは設定で変えられますが、僕は予め設定されていた値で使っただけなので詳しいことはよくわかりません。説明書が装置脇にあるので見てみてください。

あまりやる気のない書き方になってしまいすみません。でもこの装置は分析のためにはとても重要な装置なのです。サンプルをきちんと調整できていないと分析された値に信頼を持てません。固形物はきちんと細かくすりつぶして成分の抽出効率を上げる必要があります。本装置は本当にとことんまでに細かくすりつぶしてくれます。ただ上下に振動するだけではなく縦に8の字を描くように動くので効率よくすりつぶせるのだと思います。先ほどの魚では骨まできれいに粉々に粉砕してくれました。

この中にサンプルが入ったチューブをセットします。

 本装置内の3箇所の筒状の穴にサンプルと粉砕用ビーズの入ったチューブをセットします(2mLチューブは2つずつ更に大きなプラスチックチューブに入れて蓋をし、筒の中にセットします)。この時バランスをとる必要があるのでサンプル数が6本より少ない場合は重さが同じダミーのチューブを空いた場所に入れておきます。チューブをセットした筒に金属製のスクリューキャップをします。装置の蓋を閉め、スタートボタンを押すと「本当にいいの?」という意味合いの確認画面が出るので良い場合はそのまま画面のOKのボタンを押します。

サンプルチューブをこれらの容器にセットして装置に入れます。サンプルを右側のプラスチックチューブにいれ、更に左側の金属のチューブに入れて装置へセットします。

すごい音がして装置が動き出します。バランスが取れている場合は即安定します。バランスが取れていない場合はどうなるか試したことはないのでわかりませんが、すごく大きな音がして震え出すのではないでしょうか。とにかくバランスを合わせるように注意してください。

硬い植物の組織もすりつぶせると思います。骨も大丈夫だと思います。すりつぶすときはチューブ内に半分くらいまでバッファー等を入れておいたほうが良さそうです。そのままだと摩擦で温度が上がりすぎて成分の分解を促進してしまいます。長時間(数分)作動させるときはバッファーを入れていても温度が上がりすぎるので適宜冷却装置を使ってください。

使用にあたって特に細かい説明が必要な装置ではありませんが、注意点など心配がある方は遠慮無くゲノム研究分野までお知らせください。説明させていただきます。ちなみにすりつぶすことをホモジナイズと言ったりもするので本装置のような機械はホモジナイザーと呼ばれます。しかしながら本装置はマルチビーズショッカーという名前です。わかりにくいですね。以上です。

設置場所:ゲノム研究棟 3階 306号室左奥の低温室(現在は常温運用中)

利用料金:無料!

詳しくはゲノム研究分野 管理室まで (内線 3174、Eメール mgrc@gifu-u.ac.jp)

Waters社 Aquity UPLC XevoQTof

ゲノム研究分野 共同利用機器紹介-(3)

質量分析装置の知られざる能力 Acquity UPLC XevoQTof




皆さんは質量分析装置についてどれくらいご存知でしょうか。僕はこの装置で初めて質量分析装置に触れましたが、それまでは質量分析装置についてかなり誤解した知識を持っていました。質量分析装置は読んで字のごとく質量を分析する目的のためにあるのではないのです。実はこの装置、「構造解析装置」であり「定量装置」なのです。

本装置は2つの部分から構成されます。一つは液体クロマトグラフィー(液クロ)部(Aquity UPLC, アクイティー ユーピーエルシー)、もうひとつは質量分析部(XevoQTof, ゼボキュートフ)です。簡単に説明すると液クロ部で混合物を分離して、質量分析部でそれぞれの分子種の分子量を測定します。液クロ部と質量分析部はそれぞれ独立して販売もされていて用途によっては分けて使ってもよい装置です。詳しい解説を末尾に載せていますので参照してください。

液クロ装置。真ん中はサンプルマネージャー。
サンプルマネージャー内部。96サンプルまでセット可能。

本装置の液クロ部はUPLCと呼ばれます。これはUltra Performance Liquid Chromatographyの略で超高性能液体クロマトグラフィーという意味です。HPLCという言葉を聞いたことがある人は結構いるかもしれません。これは以前はHigh Pressure (高圧)Liquid Chromatographyと呼ばれていて後述のカラム内に高圧をかけてサンプルを流し混合物を分離する装置のことでしたが、現在では更に高圧で作動するものもあるためHigh PressureからHigh Performance(高性能)へと文字の意味が変更された経緯があります。Ultra PerformanceというのはWaters社が本装置の性能の良さを示すためにそう読んでいるだけなのでHPLCと同等の言葉だと思ってもらって差し支えありません。

質量分析部分はいわゆるタンデム4重極(Tandem Quadrapole)型及び 飛行時間(Time of Flight, Tof)型と呼ばれる構造になっています。合わせてQTofとよんでいます。4重極部、Tof部共に質量分析が行えます。つまり本装置は2つの質量分析装置をつなげた構造となっています。この2つの質量分析装置が構造解析を可能にします。

まず定量はどのように行うのか説明します。測定したいサンプルがあって複数の分子種が混在しているとします。まずはこれを測定しやすくするためにUPLC部分でサンプルをカラム内に通し分子種ごとに分離します。カラム内に充填されているポリマーへの吸着度によって異なる分子種は異なる時間をかけてカラム内を移動し時間差でカラムから出てきます。そのようにして分離された分子は質量分析部に送られます(分離を早く行うためにカラム内は細く高圧がかかります)。

カラム。サンプルは右から左へ流れます。

質量分析部では前述の2つの質量分析部のうち精度の高いTofを使って質量を測定します。Tof部では分子はイオン化され電気的な力によって真空内を飛行させられます。小さいものは早く、大きい物は時間をかけて飛行するのでその飛行時間情報を元に質量を測定する仕組みです。カラムからは時間差で次々に異なる分子が質量分析部へ送られ、質量分析部では素早くそれらの質量を測定します。そのようにして短時間で多くの分子の質量を分析します。

 分析された分子はその質量によってなんの分子であるか利用者が判定します。あまり雑多なサンプルだと同じ分子量の異なる分子を測定してしまう可能性もあるので、サンプルはある程度精製しておく必要があります。しかしながらカラム内を移動する時間(保持時間, retention timeと呼ばれます)は分子種ごとに一定の値に決まっているため、保持時間と質量の組み合わによって分子種はかなり正確に特定できます(同じ分子量のものでも構造が違えば保持時間が違うため別のものだと判定できます)。

定量時には測定したい物質の標準サンプルというものを用意します。精製されて正確な濃度に調整された標準サンプルを対照として測定します。質量分析部で測定される質量の検出強度は量に比例するため、対照として用いた標準サンプルとの検出強度との比によって自分のサンプルの量を計算により求めることができるのです。実際には正確性を増すために濃度が異なる複数の標準サンプルを比較に用います。

質量分析装置。
この中でサンプルをイオン化する(ESI方式)。
開けたところ。イオン化された試料はここで装置内部へ入る。
次に構造解析について説明します。ある分子の構造を特定するためにはこの分子をバラバラにして複数のパーツに分け、それぞれのパーツの質量を測定しパーツごとの構造を推定します。次にそれぞれのパーツを1つに組み上げて元の分子を再構成しますが、この時に整合性の取れる分子構造は限定されます。再構成可能な組み合わせを特定することで分子の構造を明らかにすることができます。

構造解析時にはもう1つの質量分析部である4重極を使います。4重極は前述のTof部の前に配置されており未使用時はサンプルは素通りしてTofへ送られています。4重極使用時にはUPLC側から送られてきたたサンプルは4重極が作り出す電気的な振動によって一定の振幅で振動して進んでいきます。この時利用者が設定した特定の分子量の分子は安定して振動しますが他の分子は安定せず壁面に激突して取り除かれます。つまりこの部分ではある決まった分子量のもののみを選別できるのです。ここでは構造を解析したい分子種の分子量を設定してその分子のみを通過させます。

タンデム4重極の名の通り4重極はもう1つ連続して有ります。2個めの4重極は衝突室(Collision Chanber)と呼ばれます。ここにはアルゴンガスが充填されており、分子に衝突して複数のパーツに開裂させます。開裂した複数のパーツは引き続きTof部に送られパーツごとの分子量が測定されます。前述のように開裂したパーツの質量情報を元に最初の分子の構造を推定します。ジグソーパズルのようにピッタリと再構成できる組み合わせを探すことで構造の特定が行われます。

以上のように質量分析装置は質量を分析することである分子の「濃度を測定」したりある分子の「構造を解析]できる装置なのです。研究において定量や構造解析は非常に重要です。本装置で測定できるものは多岐にわたります。生体構成成分ではタンパク質、脂質、糖質、DNAやRNAまでいろいろな分子を測定することができますし、合成した低分子-高分子化合物の構造解析にも応用できます。医学、生物学、工学、農学分野と幅広い分野の研究に貢献している装置です。実は本装置の利用率はかなり高く、ゲノム研究分野の共同利用機器の中でダントツの1位です(受託解析機器を含めるとDNAシーケンサーが一番使われています)。なかなか予約が取りにくい時期もありますがぜひ本装置を利用していただき研究に活用していただければと思います。

ぼやき(本段落は飛ばして次へ進んでください)
実は本装置、利用率の高さとも相まってトラブルが一番多い機器でもあります。装置の性質上サンプルの流路が汚れたり詰まったりします。またサンプルをイオン化する部分も汚れがたまりやすいところです。定期的に洗浄していますが全てを綺麗にするのは構造上なかなかできません。これらのトラブルはこの種類の装置の宿命なのでどうしようもないですが、できれば将来改善されてほしい部分です。メーカーの皆さんよろしくおねがいします。またうちの装置に特有の現象ですが装置と解析コンピューター間の接続の断絶が頻発します。お使いの方でReboot作業をされる方も多いと思います。これについては近々Watersに来てもらい調査する予定ですので可能であれば改善します。もう少しお待ちください。一応修理が終わりました。ゲノム研究分野では本装置のメンテナンス契約をWatersと結んでいますので(結構高いお金を払ってますのでその元をとる意味でも)装置の不具合や使いにくい部分がある場合には遠慮無くゲノム研究分野までお伝え下さい。こちらからWatersに連絡を取り改善できる部分は改善していきます。

ゲノム研究分野では快適に本装置を使っていただけるように毎週専門のスタッフが装置の定期的なメンテナンスを行っています。また大きな不具合が発生した場合にはサポート契約を結んでいるWatersからサポートの方がすぐに来て修理してくれます。使用法の説明もしますのでこれまで使ったことがなかった方も是非ゲノム研究分野までご連絡ください。

設置場所:ゲノム研究棟 302号室

利用料金:1,000円/1使用

詳しくはゲノム研究分野 管理室まで (内線 3174、 Eメール mgrc@gifu-u.ac.jp)


解説

超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)部

本装置の液クロ部は逆相液体クロマトグラフィー用に構成されています。疎水性ポリマー(固定相)が充填された逆相カラムをセットしサンプル溶液をその中に通します。移動相と呼ばれる水相と有機相(有機溶媒相)の2つの溶媒を使ってサンプルをカラムに通し分離します。

サンプル溶液内の物質ははじめはカラム内のポリマーに結合していますが移動相が流れるに従いカラム内を移動します。この時ポリマーへの結合度と移動相への溶解度が物質ごとに異なるためカラム内を移動する速度に物質ごとに差がでます。より疎水性が強い物質ほど移動度が遅くなります。場合によっては移動相中の有機相の割合を段階的に増やして疎水性の物質の移動を早めたりもします。カラムの先端からは疎水性の度合いが低い物質から順番に流出して溶媒に溶けた状態で順次質量分析部へ送られます。

移動相には水相には水、有機層にはアセトニトリルやメタノールがよく用いられます。何を使うかは自分が測定する物質によって決めます。質量分析時にサンプルがイオン化しやすいようにギ酸や酢酸アンモニウムなどを添加することも有ります。使用する移動相はHPLCグレードの精製度の高いものを用います。不純物が多いと分離やその後の質量分析時に影響が出ます。

質量分析部(QTof部)

質量分析部ではサンプル分子の質量を小数点以下3桁まで精密に測定することができます。ある特定の分子量が測定された時、その分子量の物体を構成できる原子の組み合わせは限られています。たとえは水素(質量1)と炭素(質量12)からなる分子で分子量が28ならば現実的にはC2H4以外にありえません。質量が多くなれば同じ分子量の異なる物質が複数ありますが、前処理で装置に導入するサンプルをある程度精製しておけば(タンパクだけ、脂質だけ、糖質だけ等にしておく)構成される原子の種類を制限できるため、測定された質量から構造の推定ができます。

また実際の測定では測定した物質は同位体をある割合で含んでいるため質量が複数測定されます。例えば炭素C12の同位体であるC13は自然界では約1.1%ほど含まれています。少ない数に思えますが、炭素原子を多く含む分子の場合には同位体の存在は無視できなくなります。炭素数が30あるとC13を含む分子が全体の2割を超えてきます。同位体を含む分子と含まない分子の割合を計算することで測定した物質が目的の分子であるかどうかを確認する方法の1つになります。

本装置では質量分析のためのイオン化法としてESI法(electrospray ionization)を採用しています。これはサンプルが溶解した溶媒に電荷を与え細管の先端から高温のチャンバー内にスプレー状に噴射させ気化してイオン化する方法です。溶媒が気化した時に電荷が溶媒中のサンプル物質に残るためその物質はイオン化します。イオン化は陽イオンになる場合と陰イオンになる場合があります。陽イオン化時は水素原子核(H+)が物質内の局所的陰イオン部に引き寄せられることで分子を陽イオン化します。Na+やその他の陽イオンがつくことも有ります。陰イオン化時は主に水素原子核が引きぬかれ陰イオンになります。物質よってはこれら以外のイオン化過程でイオン化します。

本装置ではコロナ放電を用いたイオン化法も利用できます。これはスプレーしたサンプルを含む溶媒に金属電極から放電して溶媒をイオン化、その後溶媒の電荷をサンプル物質に受け渡すことでイオン化を行います。イオン化しにくい物質の場合はこちらの方法も試してみるとよいでしょう。

ゼネラル・エレクトリック (GE) IN Cell Analyzer 2200 イメージングサイトメーター

ゲノム研究分野 共同利用機器紹介-(2)


細胞構造の大規模解析にどうぞ IN Cell Analyzer 2200


「ジェットエンジンから電球までつくります」でお馴染みのアメリカGE社が「イメージングサイトメーター」という聞いたことのないカテゴリーの製品を作ってきました。サイトメーターとは一般的にフローサイトメーターのことを指します。フロー(水流)・サイトメーター(細胞の測定)という名前からわかるようにフローサイトメーターは細胞を溶液ごと装置内へ流してカウントしたり性質ごとに分類して解析する装置です。以前の本欄で紹介したソニーのセルソーターもフローサイトメーターのカテゴリーに含まれます。

一方で本機のようなイメージング(撮影)・サイトメーターとはどういう機械でしょうか。前述のフローサイトメーターは細胞を溶液内で浮遊状態にしてレーザーを当てて細胞を解析します。したがって血液細胞など浮遊している細胞はそのまま測定できますが、シャーレの底に張り付いて増殖する付着性の細胞(線維芽細胞など)は一旦シャーレから剥がして酵素処理により細胞を1個ずつバラバラにして浮遊状態にしてから測定する必要があります。増殖中はシャーレに張り付いて平べったく伸展していた細胞はバラバラになると丸い球状に形が変化してしまいます。これではこの細胞があるべき姿で測定できません。イメージングサイトメーターはフローサイトメーターのこの欠点を解消すべく開発されました。

本装置は培養状態の付着性細胞をそのまま高精度カメラで撮影し、撮影された画像からソフトウェアが細胞の位置を判定し数をカウントしたり細胞内の構造の特徴を検出して数値化します。例えば個々の細胞の大きさやミトコンドリアの数、神経細胞の場合では伸びている軸索の長さなどを個々の細胞について測定し統計処理を行ってくれます。フローサイトメーターでは失われていたこれらの情報をイメージングサイトメーターは余すことなく測定してくれます。

ここが開いて
こうなる。
装置の大きな外観に反して内部の基本設計は至って簡単です。本装置の心臓部は顕微鏡です。外からは見えませんが内部には高性能の蛍光顕微鏡と半導体光源が入っています。装 置の開口部は1箇所のみでここから培養細胞が入ったプレートを内部に挿入します。装置全体が暗室の役目も果たします。操作はすべてコンピューター画面上で行い、焦点もレーザー測距によって自動で調整されます。本装置には8つの異なる波長を出す半導体光源が搭載されていて任意の蛍光抗体を励起して高性能CMOSカメラが蛍光像を撮影します。同時に明視野像も撮影することができます。撮影された画像を専用解析ソフトに転送し解析を行います。以下では培養細胞を固定処理して蛍光抗体で染色し特定の細胞小器官(例えばリソソーム)を解析し、細胞あたりのリソソームの数を統計処理する方法を例に説明します。


利用者はまず細胞を24穴(ウェル)プレートや96穴プレートなどの汎用規格サイズの培養プレート内で細胞を培養します。固定液で処理し、リソソームを認識する抗体と蛍光2次抗体で染色を施します。細胞位置の指標となる核をDAPIやPIなどの蛍光色素で染色します。画面上で操作してプレートを装置内にセットします(ボタンをクリックすると自動で挿入口が開くので挿入口のラベルに従ってプレートを置きます)。画面上で操作するとプレートは自動で装置内に引きこまれます。次に測定ソフトウェアに自分が使用しているプレートの情報を読み込みます。ウェルの位置や底の厚みが同じ96ウェルプレートでもメーカーごとに少しずつ異なるので別のメーカーのもので設定すると画像がきちんと撮影できません(予めよく使われるメーカーのプレート情報はソフトウェア内のリストに入っています)。次に測定したい蛍光の波長、測定を行うプレート内のウェルを指定して(96穴全てを連続で撮影することもできます)撮影をスタートすると設定した通りにに撮影が自動で行われます。1ウェルあたり複数箇所を撮影してあとでウェルごとに1枚の画像にすることもできます。

プレートを入れる所。左上にプレートのA1ウェルが来るようにセット。


次に撮影した映像を解析用のソフトで開いて解析方法を設定し(この場合は細胞の数とそれぞれの細胞内のリソソームの数を数えるように設定します)、解析を開始します。コンピューター内で画像情報を解読してそれらの値が自動ではじき出されます。結果、例えば全部で1052個の細胞をカウントし1細胞あたりのリソソーム数の平均が75個だったなどの計算してくれます。1ウェルごとに異なる薬剤で処理して測定することで有意にリソソームの数が減ったウェルを特定し、リソソームの形成に影響を与える薬剤を探しだすといった用途にも使えます。リソソーム以外にも神経軸索の伸長に影響を与える薬剤を調べたり、特定のタンパク質の合成を阻害するmicroRNAをスクリーニングするといったこともできます。

装置本体はシンプルで利用者は電源スイッチを押すときとサンプルプレートを入れる時以外は本体に触れることはありません。ただ残念ながら、測定・解析用ソフトウェアの操作性は決して良いとはいえません。直感的に操作ができるように設計されていないので使い始めは必ず知っている人に教えてもらう必要があります。ゲノム研究分野では専門のスタッフが測定方法と解析方法についてフォローさせてもらいます。またGEに電話で相談したり、GEとコンピューター画面を共有してその場で解析方法を相談することもできます。

操作画面。

規格プレート以外にもスライドガラス観察にも対応しているのでスライドガラス上に張り付けた細胞を染色して測定したり、染色した切片を明視野や蛍光で観察・測定することも可能です。しかしながら培養でよく使われる丸いディッシュには対応していません(GEによればサードパーティ製のアダプターがあるらしいのですが・・)。GEさん、それらも使える純正のアダプターを出してくれることを強く望みます(付属品だとなお良い)。また規格プレートについても予めプレート情報が登録されている製品は限られるため、自分でプレート情報(寸法、底の厚み等)を装置に登録する必要があります(これがかなり面倒です)。GEが提供している本装置のWebページ上の利用者フォーラムで他の利用者がプレート情報を提供していることがあるらしいのでそれらを利用することもできるそうです。しかしながらプレート情報くらいはGE側で提供してほしいものです。GEさん、それくらいのサービスはこの装置がメジャーな解析装置になるためにもぜひ行うべきですよ!!先ほどのシャーレ用アダプターも含め、売ったら終わりではなく利用者の立場に立った製品づくりとサポートをお願いします!!

不本意にもGEへの要望丸出しになってしましましたが、イメージングサイトメーターは高精度の写真から利用者が指定した細胞の構造を画像解析ソフトが探し出し解析するシステムのため、指定する構造を色々と工夫することで測定可能なパラメーターはほぼ無限にあると言えます。解析装置としてかなり高いポテンシャルを感じます。操作に慣れるまではゲノム研究分野が全面的に利用のサポートをしますのでぜひ本装置を使ってみてください。ちなみに蛍光撮影ができる顕微鏡としてもかなり高性能ですのでサイトメーターとしてだけではなく蛍光像の撮影にも是非オススメです。実は僕はこの用途で結構使っています。短時間の操作で大量のサンプルの撮影ができるので便利です。こちらもぜひ一度お試しください。

設置場所:ゲノム研究棟 3階 304号室

利用料金:現在のところ無料でお使いいただけます。数カ月後から利用料金(未定)を頂きます。

詳しくはゲノム研究分野 管理室まで (内線 3174、 Eメール mgrc@gifu-u.ac.jp)         

SONY セルソーター SH800

ゲノム研究分野共同利用機器紹介-(1) 

SH800 SONYがつくったセルソーター



ソニーが理化学研究用の機器ををつくっていることを知っている人はあまりいないと思います。僕も学会会場で本機の展示品を見るまでソニーが生命科学分野に進出しているとは知りませんでした。

「いかにもSONY!」という外観のこの装置には同社が家電製品の開発で培ったノウハウがたくさん詰め込まれいます。ズバリ本製品はSONYが生命科学分野に堂々と送り込んできた自信作です。

セルソーターとは細胞をその特徴をもとに分類して採集する装置です。細胞の大きさや細胞で発現しているタンパク質などによって細胞を分類して、興味のある細胞だけを取ってくることができます。(詳しい解説をページ最後に載せているので参照してください。)

一般的にセルソーターという装置は細胞が浮遊しているサンプル液を細い水流にして装置内に流し、レーザーで細胞を識別して分取します。そのため頻繁に流路が詰まったり汚れたりして使えなくなります。また分取時には細胞を含む液滴の軌道を空中で変えてチューブ内に誘導しますが、方向の制御がうまくいかないとチューブに入らずサンプルがチューブ外にこぼれてしまうなどのトラブルもつきものです。SONYの本製品にはそれらのトラブルを解消するためのいろいろな工夫が施されています。

交換式フローセル。

まず詰まりが頻発するフローセルと呼ばれる部品を交換可能なディスポーザブル方式にしました(世界初)。利用者は毎回新しいフローセルを袋から取り出し本製品にセットします。フローセルの先端を投入口に差し込むとスロットローディング方式で装置内に引きこまれセットされます。CDやDVDプレーヤーの様な感じです。

SONY曰く 「ブルーレイディスクプレーヤーのスロットイン技術を応用しました」 だそうです。

このフローセルは薄いプラスチックで出来ていて内部に微細加工された流路が掘りこまれています。サンプルはこの中を流れていきます。きちんと細胞を測定するためにはこのフローセル内の流路が高い精度で成型されている必要があります。

SONY 「ブルーレイディスクの加工技術を応用しました」

また、レーザーがフローセル内の特定の場所にきちんと当たらなければ測定ができません。

SONY 「ブルーレイディスクのレーザー制御技術を応用しました」

ブルーレイディスクの技術がこんなところで花開いたようです。ちなみに本装置に接続してあるコンピューターにはブルーレイディスクドライブがついています。測定時間が長い時はブルーレイディスクを鑑賞しながら測定してもいいかもしれません(測定中に鑑賞すると負荷が高まりコンピューターがフリーズするリスクを伴います)。

フローセルの入った袋。1枚ずつバーコードで管理します。
バーコードをカメラで読み込み使用を開始します。

また家電メーカーならではの配慮ですが極力利用者の操作が楽になるように設計してあります。一般的なセルソーターはサンプル測定前の調整として、レーザーの光軸調整や液滴形成のためのパルス調整、液滴偏向方向調整を利用者が行う必要がある製品が多くあります。本製品はそのいずれも自動化してあります。利用者が行う操作は調整用の溶液をセットしてコンピューター画面上のオートセットアップボタンをクリックするだけです。15分後には自動調整が終わり自分のサンプル測定が行えます。これまでのセルソーターにありがちな、調整がうまくいかず今日は測定なし、などということがありません。

ゲノム研究分野ではセルソーター初心者の方から熟練者の方まで幅広く使っていただくために技術補佐員が本機器のサポートを致します。操作方法の説明から毎日のメンテナンスまで万全のサポートで皆様の研究を支えます。また測定方法の詳しい検討が必要な場合には直接SONYのサポート部門に電話で相談していただくことも可能です。測定・分取する細胞、使う蛍光抗体の種類などを伝えると専任のスタッフが測定方法を検討をして解答してくれます。

冒頭にも書きましたがSONYはこの製品に絶対の自身を持っているようで、心臓部であるレーザー部分に関しては負荷の高い部品であるにもかかわらず「(機器の耐用年数までは)絶対に壊れません」と言い切っていました。10年位は壊れないということでしょうか。絶対などということはありえない気がしますが、それだけの自信を持って送り出した本装置の性能を皆さんも是非ご自身でお確かめください。

設置場所:ゲノム研究棟 3階 306号室

利用料金:現在のところ無料でお使いいただけます。1月から利用料金(500円/1使用)を頂きます。

詳しくはゲノム研究分野 管理室まで (内線 3174、Eメール mgrc@gifu-u.ac.jp)       


(参考) セルソーターについて

セルソーターはどのような過程で細胞の分取を行うのでしょうか?細胞はその種類によって特定のタンパク質を発現しています。いろいろな細胞が混じったサンプルから自分が興味のある細胞を分取するにはその細胞が発現しているタンパク質を認識する抗体を利用します。サンプルをその抗体で処理すると、目的の細胞だけに抗体が結合します。予めその抗体を特定の色の波長を出す色素(蛍光抗体)でラベルしておくと(または使った抗体を認識する蛍光ラベルされた2次抗体を使います)、その細胞がレーザーに反応して例えば赤い蛍光を出すようになります。この状態でサンプルをセルソーターで処理します。付着性の細胞は予め溶液中で懸濁して1細胞ごとにバラバラにしておきます。血液細胞などの浮遊性の細胞はそのまま測定できます。

セルソーターは細胞を含むサンプル溶液を細い管(フローセルと呼ばれます)に通します。サンプル溶液は同時に流れるシース液(セルソーター側から供給されます)に包まれてフローセル内で数十μm程度の細さに絞られます。そのため細胞は一列に並ぶようにフローセル内を流れていきます。蛍光抗体を発光させるためのレーザーがフローセルの途中で照射され、目的の細胞にレーザーが当たった時のみ蛍光が発せられます。セルソーターは蛍光の強さを検出器で感知します。次にサンプル溶液はフローセルの先端から細い水流となって放出されます。この時に微小パルスが水流に与えられ、水流が分裂して細かな液滴に変化します。細胞は1つの液滴に1つが含まれるように調整されます。液滴の進む先には高圧電流が流れる偏向板が待ち構え目的の液滴(目的の細胞が含まれる蛍光を発する水滴)が来た時のみ電気的に液滴を引き寄せ軌道を変えます(レーザーが当たるタイミングと液滴が偏向板の前に来るタイミングは少しずれますが装置がタイミングを計算して電流を流します)。軌道が変わった先には分取のためのチューブが設置されており、目的の細胞が回収されます。それ以外の液滴は軌道が変わらないためそのまま下に落下し廃液用のタンクへと流れていきます)。

この一連の過程をセルソーターは高速に行い、本装置(SONY SH800)では1分間に2万個の液滴を形成し次々に細胞を分取していきます。目的の細胞種が2つある場合にはそれぞれを違う色の蛍光抗体で染色し、それぞれを別のチューブに分取することも可能です。もっと多くの色で細胞を染色し、特定の色の組み合わせを持つ細胞のみを分取することもできます。本装置は6本のレーザーを装備して、同時に8色の蛍光を検出できます。実際の細胞は色々な組み合わせでタンパク質を発現しているので、それらの細胞集団から、タンパクAとタンパクBとタンパクCを同時に発現する細胞だけを分取したい、AとBを発現するがCは発現しない細胞だけを分取したいなどの要望にも答えることができます。分取した細胞は引き続き培養したり、生体成分(核酸やタンパク質など)を抽出して定量りたりといろいろな実験に用いられます。

(追記)96ウェルプレートまでのマルチウェルプレートにも細胞を分取できるようになりました。
詳細は →  関連リンク: セルソーターSONY SH800アップグレード!! を参照してください。