ゲノム研究分野共同利用機器紹介-(1)
SH800 SONYがつくったセルソーターソニーが理化学研究用の機器ををつくっていることを知っている人はあまりいないと思います。僕も学会会場で本機の展示品を見るまでソニーが生命科学分野に進出しているとは知りませんでした。
「いかにもSONY!」という外観のこの装置には同社が家電製品の開発で培ったノウハウがたくさん詰め込まれいます。ズバリ本製品はSONYが生命科学分野に堂々と送り込んできた自信作です。
セルソーターとは細胞をその特徴をもとに分類して採集する装置です。細胞の大きさや細胞で発現しているタンパク質などによって細胞を分類して、興味のある細胞だけを取ってくることができます。(詳しい解説をページ最後に載せているので参照してください。)
一般的にセルソーターという装置は細胞が浮遊しているサンプル液を細い水流にして装置内に流し、レーザーで細胞を識別して分取します。そのため頻繁に流路が詰まったり汚れたりして使えなくなります。また分取時には細胞を含む液滴の軌道を空中で変えてチューブ内に誘導しますが、方向の制御がうまくいかないとチューブに入らずサンプルがチューブ外にこぼれてしまうなどのトラブルもつきものです。SONYの本製品にはそれらのトラブルを解消するためのいろいろな工夫が施されています。
交換式フローセル。 |
まず詰まりが頻発するフローセルと呼ばれる部品を交換可能なディスポーザブル方式にしました(世界初)。利用者は毎回新しいフローセルを袋から取り出し本製品にセットします。フローセルの先端を投入口に差し込むとスロットローディング方式で装置内に引きこまれセットされます。CDやDVDプレーヤーの様な感じです。
SONY曰く 「ブルーレイディスクプレーヤーのスロットイン技術を応用しました」 だそうです。
このフローセルは薄いプラスチックで出来ていて内部に微細加工された流路が掘りこまれています。サンプルはこの中を流れていきます。きちんと細胞を測定するためにはこのフローセル内の流路が高い精度で成型されている必要があります。
SONY 「ブルーレイディスクの加工技術を応用しました」
また、レーザーがフローセル内の特定の場所にきちんと当たらなければ測定ができません。
SONY 「ブルーレイディスクのレーザー制御技術を応用しました」
ブルーレイディスクの技術がこんなところで花開いたようです。ちなみに本装置に接続してあるコンピューターにはブルーレイディスクドライブがついています。測定時間が長い時はブルーレイディスクを鑑賞しながら測定してもいいかもしれません(測定中に鑑賞すると負荷が高まりコンピューターがフリーズするリスクを伴います)。
フローセルの入った袋。1枚ずつバーコードで管理します。 |
バーコードをカメラで読み込み使用を開始します。 |
また家電メーカーならではの配慮ですが極力利用者の操作が楽になるように設計してあります。一般的なセルソーターはサンプル測定前の調整として、レーザーの光軸調整や液滴形成のためのパルス調整、液滴偏向方向調整を利用者が行う必要がある製品が多くあります。本製品はそのいずれも自動化してあります。利用者が行う操作は調整用の溶液をセットしてコンピューター画面上のオートセットアップボタンをクリックするだけです。15分後には自動調整が終わり自分のサンプル測定が行えます。これまでのセルソーターにありがちな、調整がうまくいかず今日は測定なし、などということがありません。
ゲノム研究分野ではセルソーター初心者の方から熟練者の方まで幅広く使っていただくために技術補佐員が本機器のサポートを致します。操作方法の説明から毎日のメンテナンスまで万全のサポートで皆様の研究を支えます。また測定方法の詳しい検討が必要な場合には直接SONYのサポート部門に電話で相談していただくことも可能です。測定・分取する細胞、使う蛍光抗体の種類などを伝えると専任のスタッフが測定方法を検討をして解答してくれます。
冒頭にも書きましたがSONYはこの製品に絶対の自身を持っているようで、心臓部であるレーザー部分に関しては負荷の高い部品であるにもかかわらず「(機器の耐用年数までは)絶対に壊れません」と言い切っていました。10年位は壊れないということでしょうか。絶対などということはありえない気がしますが、それだけの自信を持って送り出した本装置の性能を皆さんも是非ご自身でお確かめください。
設置場所:ゲノム研究棟 3階 306号室
利用料金:現在のところ無料でお使いいただけます。1月から利用料金(500円/1使用)を頂きます。
詳しくはゲノム研究分野 管理室まで (内線 3174、Eメール mgrc@gifu-u.ac.jp)
(参考) セルソーターについて
セルソーターはどのような過程で細胞の分取を行うのでしょうか?細胞はその種類によって特定のタンパク質を発現しています。いろいろな細胞が混じったサンプルから自分が興味のある細胞を分取するにはその細胞が発現しているタンパク質を認識する抗体を利用します。サンプルをその抗体で処理すると、目的の細胞だけに抗体が結合します。予めその抗体を特定の色の波長を出す色素(蛍光抗体)でラベルしておくと(または使った抗体を認識する蛍光ラベルされた2次抗体を使います)、その細胞がレーザーに反応して例えば赤い蛍光を出すようになります。この状態でサンプルをセルソーターで処理します。付着性の細胞は予め溶液中で懸濁して1細胞ごとにバラバラにしておきます。血液細胞などの浮遊性の細胞はそのまま測定できます。セルソーターは細胞を含むサンプル溶液を細い管(フローセルと呼ばれます)に通します。サンプル溶液は同時に流れるシース液(セルソーター側から供給されます)に包まれてフローセル内で数十μm程度の細さに絞られます。そのため細胞は一列に並ぶようにフローセル内を流れていきます。蛍光抗体を発光させるためのレーザーがフローセルの途中で照射され、目的の細胞にレーザーが当たった時のみ蛍光が発せられます。セルソーターは蛍光の強さを検出器で感知します。次にサンプル溶液はフローセルの先端から細い水流となって放出されます。この時に微小パルスが水流に与えられ、水流が分裂して細かな液滴に変化します。細胞は1つの液滴に1つが含まれるように調整されます。液滴の進む先には高圧電流が流れる偏向板が待ち構え目的の液滴(目的の細胞が含まれる蛍光を発する水滴)が来た時のみ電気的に液滴を引き寄せ軌道を変えます(レーザーが当たるタイミングと液滴が偏向板の前に来るタイミングは少しずれますが装置がタイミングを計算して電流を流します)。軌道が変わった先には分取のためのチューブが設置されており、目的の細胞が回収されます。それ以外の液滴は軌道が変わらないためそのまま下に落下し廃液用のタンクへと流れていきます)。
この一連の過程をセルソーターは高速に行い、本装置(SONY SH800)では1分間に2万個の液滴を形成し次々に細胞を分取していきます。目的の細胞種が2つある場合にはそれぞれを違う色の蛍光抗体で染色し、それぞれを別のチューブに分取することも可能です。もっと多くの色で細胞を染色し、特定の色の組み合わせを持つ細胞のみを分取することもできます。本装置は6本のレーザーを装備して、同時に8色の蛍光を検出できます。実際の細胞は色々な組み合わせでタンパク質を発現しているので、それらの細胞集団から、タンパクAとタンパクBとタンパクCを同時に発現する細胞だけを分取したい、AとBを発現するがCは発現しない細胞だけを分取したいなどの要望にも答えることができます。分取した細胞は引き続き培養したり、生体成分(核酸やタンパク質など)を抽出して定量りたりといろいろな実験に用いられます。
(追記)96ウェルプレートまでのマルチウェルプレートにも細胞を分取できるようになりました。
詳細は → 関連リンク: セルソーターSONY SH800アップグレード!! を参照してください。
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