Wednesday, September 25, 2019

New England Biolabs パート2

きまぐれメーカー案内
New England Biolabs (NEB) パート2

アメリカサイトのロゴ。黒い。
以前の続きです。

NEBはアメリカのマサチューセッツ州にある試薬メーカーです。ライフサイエンス系の多くのメーカーが買収と統合を繰り返す中、小さな会社ながら独立した道を歩んでいます。

NEBの試薬は他社同等品よりも安いものが多いので、僕はよく使っています。
以前の投稿で制限酵素とDNAポリメラーゼを紹介するつもりが、制限酵素を紹介したところで終わっていました。今回は引き続き同社のポリメラーゼとその他の情報について紹介します。



前回書いたのですが、僕は実験では用途に応じてポリメラーゼを使い分けています。用途は以下の5つ。

用途1: 普通のPCR。
用途2: 少し困難なPCR。
用途3: PCRエラー を極力抑えたい
用途4: エラーが多くてもとにかく増えてほしい(コロニーダイレクトPCRなど)。
用途5: 組織片などクルードなサンプルからのPCR(ジェノタイピングなど)。

このうち用途1から用途3でNEBの酵素を使っています。

NEBポリメラーゼ衆

まずは用途1の酵素ですが、ただのTaqポリメラーゼです。Taqポリメラーゼはいろいろなメーカーが出していますが、僕が知る限りNEBのものが一番安いです。一番コストパフォーマンスがよい最大容量品でカタログ価格6.4円/unit(税抜き)です。僕がよく買う最小容量品は15円/unitですが、キャンペーンで買うともっと安くなるので時々チェックしましょう。

用途2で使っているのはOneTaqポリメラーゼです。いわゆるブレンド型のTaqポリメラーゼで、校正活性を持つDeep Ventポリメラーゼが混ぜてあり、普通のTaqポリメラーゼを使った時よりも正確性が少し上がります。PCRでの変異導入やキメラ遺伝子を作成するときの1st PCR用に使っています。

用途3で使っているQ5はNEBの製品で最新型のハイフィデリティポリメラーゼです。正確性は同じくNEB (さらにThermoFisherも) が販売しているPhusionの2倍、Taqの100倍以上(NEBのアメリカサイトは280倍!と言っている)あります。いまNEBはQ5をかなり推してきており価格がPhusionよりだいぶ低く設定してあります。HotStart仕様のものも比較的安価なので僕はこちらを使っています。目的外の部分に変異が起こらないため配列を改変した遺伝子コンストラクトを作る(上記:PCRでの変異導入やキメラ遺伝子を作成するとき  の2nd PCR)のに重宝します。


NEB websiteより。

NEBパート1の制限酵素のところでも書いたのですが、NEBは社内に研究所を持っており日々新しい試薬の開発を行っているようです。同社のHPを見ると所内を移した動画や写真が見られますが、大学の研究室の様な環境で研究開発を行っている様子を垣間見ることができます。

聞いた話ではNEBは儲けることよりも会社の活動によって社会へ奉仕することに重きを置いているそうで、儲けのほとんどを研究開発につぎ込んでいるそうです。同社の社長は今でも一昔前に買った古い自家用車に乗った質素な方だそうですが、その社長の理念が安い価格設定や簡易包装、試薬組成の公開などに現れている気がします(同社が販売する多くの試薬の組成はHP上でも公開されているのでバッファーなどは買わなくても実は自作が可能です)。

大学の研究予算の多くは(日本の)税金なのでなるべく日本のメーカーのものを買いたいと思っているのですが、同社の製品は価格の安さに加えて会社イメージの良さもあり買ってしまいます。

またNEBはHP上で様々な研究用ツールを提供しています。


TmCalculatorはNEBのポリメラーゼを使ってPCRを行うときにプライマー配列に応じて最適なアニーリング温度を教えてくれます。酵素によってTm値との温度差が微妙に違うのでNEBの酵素を使ってPCRを行うときはこのツールでアニーリング温度を確かめましょう。

NEBioCalculatorはDNAの濃度と長さからモル数を計算したり、OD260からの核酸濃度計算、ライゲーション反応に必要なインサートDNA量などをおしえてくれます。自分で計算するのが実験の理解のためにはいいのですが、このツールで計算手順を知るのもいいと思います。

NEBcloner/Double Digest Finderは2つの制限酵素で同時処理する場合に最適なバッファーを教えてくれます。

他にもいろいろあるのでみてみてください(とはいっても僕はほぼTmCalculatorしか使ってませんが・・)。

また、NEBのカタログは制限酵素の認識配列と切断パターンが載っていて確認に便利なので毎年手に入れてます。このカタログには製品自体の詳細に加え、実験の原理なども解説してあって勉強にはちょうどいいのですが、英語です。日本語のカタログはTOYOBOのものが同じような内容なのでこちらのほうが便利かもしれません(今度紹介する予定です)。

最後に注意を1つ。NEBの試薬はキャップに印字してありますが、エタノールで拭くとすぐに消えます。チューブ立てに入れて上から見ると何の試薬かわからなくなるので気をつけましょう。

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ご質問はゲノム研究分野まで。
内線: 3171
e-mail: mgrc@gifu-u.ac.jp

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