Friday, April 19, 2019

PCRを使った変異/キメラコンストラクトの作成(後編)

前回の続きです。

1st PCRでは目的の遺伝子を2つのフラグメントに分けて5サイクルだけの増幅を行い、増えてきたPCR産物を電気泳動で分離して精製しました。続いて1st PCR産物をつなぐための反応を行います。この方法には2通りあります。

まずは簡単なほうから説明します。




2nd PCR (方法1)
続いてのPCRは校正活性の高い酵素を用いての反応です。NEBのQ5ポリメラーゼを用いた例を示しますが、TOYOBOのKODシリーズやTAKARAのPrimeStarシリーズなども同じく校正活性が高い酵素です。



また使用するプライマーは Fragment A の Forward primer と Fragment B の Reverse primer です。うまくいけば Fragment AとBがつながります。

以下のように反応液を調整します。



ddH2O 28.5

5X Q5 buffer 10.0

dNTP mix (2.5mM each) 4.0

10μM Fragment A-Forward primer 2.5

10μM Fragment B-Reverse primer 2.5

1st PCR product (Fragment A) 1.0

1st PCR product (Fragment B) 1.0

Hot start Q5 polymerase 0.5

Total 50.0  (μL)

 PCRは以下の条件で行います。25サイクル行います。



Initial denaturing 98℃ 30 sec




Chain reaction (25 cycles) 98℃ 10 sec


X℃ 30 sec


72℃ Y sec




Final extension 72℃ 2 min




Hold 10℃

*アニーリング温度 (X) と時間 (Y) はプライマーやPCR産物の長さに合わせて設定します。
  使用する酵素によりその他の温度や時間も変動します (追記 190620: アニーリング温度はオーバーラップ部分またはプライマーのTm値の低いほうに合わせて設定します)。



PCR産物を5μLとってゲル電気泳動でチェックしたのが下の写真です。0.5kbと1.7kbの2つのフラグメントがつながり2.2kbの長いフラグメントが増えてきました。


目的のバンドは2.2kb(上)のほう。


目的外のものも増えていますが、うまくつながりました。続いて残りのPCR産物(45μL)をカラム精製し、ゲル電気泳動で分離、目的のバンドの切り出しまでを行います。最終的に10μLの溶出液で目的DNAをカラムから溶出しておきます。

校正活性の高いQ5ポリメラーゼを使っているのでPCR産物は平滑末端になっています。したがってこの後はblunt-endクローニングでベクターとつなぎます。手順はこちらの投稿を参考にしてください。(参考リンク→B-vector

ベクターにクローニングした後は目的外のPCRエラーがないかどうか、目的の個所に塩基の変更が起こっているかどうか、あるいはGFPとつながっているかどうかをDNAシークエンスにより確認します。PCRエラーの入りやすい1st PCRを5サイクルにとどめていますが、必ずDNAシークエンスによる全長配列の確認を行いましょう。


(上記2nd PCRで目的の配列が増えない場合の対処法)
上の電気泳動写真では目的外のPCR産物も増えています。もし目的外のPCR産物が優先的に増えてしまい、目的のDNAが得られない場合には次に示すもう1つの方法を試します。



2nd PCR(方法2)
1st PCR産物は5サイクルしか行わないのでDNA量が少なめです。まずはこれを増やします。やはり校正活性の高い酵素を用います。Q5での例を示します。

Fragment A および Fragment B 用にそれぞれ以下の反応液を調整します。



ddH2O 29.5


5X Q5 buffer 10.0


dNTP mix (2.5mM each) 4.0


10μM Forward primer 2.5    (プライマーは1st PCRと同じ

10μM Reverse primer 2.5     組み合わせです。)

1st PCR product (Fragment A or B) 1.0


Hot start Q5 polymerase 0.5


Total 50.0  (μL)


PCR条件



Initial denaturing 98℃ 30 sec




Chain reaction (25 cycles) 98℃ 10 sec


X℃ 30 sec


72℃ Y sec




Final extension 72℃ 2 min




Hold 10℃

*アニーリング温度 (X) と時間 (Y) はプライマーやPCR産物の長さに合わせて設定します。
  使用する酵素によりその他の温度や時間も変動します。

増やした結果が以下の写真です(5μL PCR products)。

Fragment Aは0.5kb, Fragment Bは1.7kb


しっかりと増えてきました。残りのPCR産物(45μL)をカラム精製し、ゲル電気泳動で分離、目的のバンドの切り出しを行います。15μLの溶出液で目的DNAをカラムから溶出しておきます。

つづいてこれらのフラグメントをつなぎますが、少し工夫します。


Concatenation reaction
以下のように反応液をセットアップします。やはりQ5を使った例です。



ddH2O 25.5

5X Q5 buffer 10.0

dNTP mix (2.5mM each) 4.0

PCR product (Fragment A) 5.0

PCR product (Fragment B) 5.0

Hot start Q5 polymerase 0.5

Total 50.0  (μL)


見てお分かりのように、プライマーは入れません。先程のPCR産物を混ぜてサーマルサイクラーで温度の上げ下げを行うことでオーバーラップ部分がプライマーとして働き、もう1つのPCR産物をテンプレートにして伸長反応が進み2つのフラグメントがつながったものが出来上がります(一番下の図を参照してください)。ちなみに 2nd PCR (方法1) の反応もこれと同じことが起こった後で両端のプライマーが増幅をかけていると思われます。

サーマルサイクラーの設定は以下の通り。10サイクルのみ行います。




Initial denaturing 98℃ 30 sec




Chain reaction (10 cycles) 98℃ 10 sec


X℃ 30 sec


72℃ Y sec




Final extension 72℃ 2 min




Hold 10℃


Xのアニーリング温度はオーバーラップ部分のTm値から計算します。また、Yの伸長時間は長いほうのフラグメントの伸長にかかる時間で設定します(2つのフラグメントの合計の長さで計算する必要はありません)。


電気泳動結果(5μL PCR産物)。

Fragment A (0.5kb) とFragment B (1.7kb) がつながる (2.2kb)。一部はつながらずに残る。


おそらく下図のような反応が起こっていると考えられます。そのためつながらないDNA鎖(電気泳動写真の青矢印)も残ります。




この後はこれまでと同様にPCR産物のカラム精製、ゲル電気泳動、目的DNAバンドの切り出しとゲルからのDNA精製を行い、最終的に10μLの溶出液(キット付属の溶出バッファーや5mMまたは10mM Tris-HCl)でDNAを溶出しておきます。

Blunt-endクローニングでベクターに入れた後(参考リンク→ B-ベクター)、PCRエラーがないかどうか、目的の塩基の変更が起こっているかどうか、あるいはGFPとつながっているかどうかをDNAシークエンスにより確認して終了です。

うまくいけば2回のPCR反応だけで目的のDNAが得られます。うまくいかなくても3回の反応で済みます。

ちなみにスピード感を持って実験を進めるためにはDNA精製カラムの利用がとてもおすすめです。安いカラムで十分なのでラボの先生にねだってみましょう。


ご質問はゲノム研究分野まで。
内線: 3171
e-mail: mgrc@gifu-u.ac.jp

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