Wednesday, August 14, 2019

PCR酵素 Update 2019


現在の支配下登録および育成登録選手

かなり以前に僕がPCR実験で使っている酵素について用途別に紹介しましたが、それからいくつかラインナップが変わったのであらためて紹介します。今回も用途別です。




用途1: 対象が精製したDNAで、やれば普通に増える時用。

NEB Taq polymerase

使用酵素: NEB Taq DNAポリメラーゼ

コメント: とにかく安い。たぶん一番安い。
キャンペーン期間中に買うと激安です。こまめにチェックしましょう。


用途2:少し困難なPCR用。DNAの精製度が低い時や普通のTaqポリメラーゼでは増えない時用。
TAKARA ExTaq

使用酵素: ExTaqポリメラーゼ (TAKARA), KOD FX Neo (TOYOBO), OneTaqポリメラーゼ(NEB)

コメント: ExTaqはTaq系ではかなり増えが良い。その割に間違いが少ない(Taqの3倍)、いわゆるブレンド型酵素。 増えない時の1st choice。増幅産物は3’端A突出。KOD FX Neoはプルーフリーディング活性を持つKODポリメラーゼの改良版。安心のホットスタート仕様。正確性はさらに高い。用途5でも書いていますが、クルードサンプルにも強い。増幅産物は平滑末端なのでTAクローニングはできない。値段は両方ともだいたい同じくらいです。

また、ExTaqとOneTaqはPCRで遺伝子に変異を入れたい時やキメラ遺伝子を作る時の1st PCRでも使えます。詳しくはPCRを使った変異/キメラコンストラクトの作成の投稿を参照してください。OneTaqポリメラーゼはExTaqに比べて増幅効率はやや弱い印象ですが、大幅な価格の安さが魅力のブレンド型酵素です。僕は変異導入専用にしています。


用途3: 発現ベクターの作成や遺伝子クローニングなどPCRエラーによる塩基置換をさけたい時用。
NEB Q5 Hot Start polymerase
使用酵素: Q5 Hot Start (NEB), PrimeSTAR HS (TAKARA)

コメント: 以前はPhusionも使っていましたがNEBがQ5を推してくるのでこちらに変更。増えはPhusionのほうが少し良いかも。でもこの酵素の用途ではほとんどの場合精製したDNAをテンプレートにするので増幅効率はあまり気にしていない。本酵素はプルーフリーディング型の酵素でNEBはTaqの100倍の正確性と言っている。 Hot Start仕様でない製品もあります。PrimeSTAR HSはちょっと高いか。いずれも増幅産物は平滑末端。


用途4:PCRエラーの頻度が高くてもいいのでとにかく増えてほしい時用。コロニーダイレクトPCRでのインサートチェック用。
Agilent Paq5000
使用酵素: Paq5000 (Agilent)

コメント: 何かよくわからない酵素だけどコロニーPCRでよく増える。安いのでそれなりに気軽に使える。用途5にも結構使えます。Agilentはもっと積極的に売るべき。増幅産物はA突出(のはず。この酵素で増やしたものをクローニングしたことがない)。ちなみによく増えるからといって酵素をケチって使っていると酵素よりも先にバッファーがなくなってしまうが、NEB Taq polymeraseのバッファー(ThermoPol buffer これだけでも買える)が使える(若干スメアになります)のでなんとかなる。


用途5 : マウスやゼブラフィッシュのジェノタイピング用。粗精製DNAからのPCRなどクルードなサンプルに使用する。
TOYOBO KOD FX Neo

使用酵素:  KOD FX Neo (TOYOBO)

コメント: いろいろ試してこれに行き着きました(次点はPaq5000)。おすすめです。かなり小さなサンプル(ゼブラフィッシュ仔魚の尾ビレの先の極小片)からでもしっかり増やしてくれる。あまり安くはないが実験のやり直しが減るのでよし。ところでKODシリーズはいろいろ種類がありすぎてどれを選べばいいのかわかりにくいのでTOYOBOは整理すべき(そのせいで逆に売れなくなっているのではないか)。とりあえず増えなくて困っている人はサンプル品を試してみましょう。



最後に現在の僕のスターティングメンバーです。

用途1: NEB Taq
用途2: TAKARA ExTaq (控え NEB OneTaq)
用途3: NEB Q5
用途4: Agilent Paq5000
用途5: TOYOBO KOD FX Neo


たくさんの酵素を揃えるのは無駄なような気がしますが、実際には増えないことによる実験のやり直しや無駄な条件検討等の時間と費用が省かれるので、特に人手と予算に乏しい研究室には有効だと思います。

殆どのメーカーがサンプルを出してくれます。まずはそれらをもらって試してみましょう。


ご質問はゲノム研究分野まで。
内線: 3171
e-mail: mgrc@gifu-u.ac.jp

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