Tuesday, January 24, 2017

リアルタイムPCRとネガコン2

混ざったね・・・。



水でも増えてくるというみなさま。あらためてこんにちは。前回の投稿(→リンク)のつづきです。

前回はリアルタイムPCRで水しか入れていないネガコンが増えてきてしまうという内容でした。これを書いている僕も水で増やしちゃったほうです。どうやったら増えなくなるか。検討していくつかの解決策を提案します。長い投稿になりますがこのおかげで研究室では安定してネガコンで増幅がなくなりました。

3つのポイントがあります。何が混入するか、どこから混入するか、どのタイミングで混入するか、です。





何が混入するか?
これは検量線作成時に使った高濃度cDNAであると考えられます。例えばある遺伝子のmRNA量を測定する事を考えましょう。この場合一度検量線を引く必要があります。検量線は対象となる遺伝子のcDNA(プラスミドにクローニングしたものや一度PCRを行い増えてきたPCR産物を精製したもの)を使って濃度の違う希釈系列を作り、リアルタイムPCR反応を行うことで作成します。

少なくとも希釈系列の一番濃いものは実際のサンプル中の濃度よりも濃い必要があります(そうじゃないと検量線内にサンプルの測定値が入らないため正確な定量ができない)。実際には検量線の真ん中くらいにサンプルの測定値が来るように設定するので、検量線作成時はかなり高い濃度のcDNAを取り扱うことになります。これが混入します。

もちろんこれ以外のもの(精製したゲノムDNAなど)も混入する可能性はあると思いますが、混入の機会と混入したときの影響は低いと思います。

(ちなみにこれまで一度も検量線を作成したことがないという方は実験プランの再確認が必要かもしれません。研究室の先生や先輩に聞いてみてください。)

検量線の右下の部分はサンプルよりも数10 倍以上高い濃度である場合が多い。

どこから混入するか?
多くの場合ピペッターが対象cDNAに汚染されておりそこから混入します。
混入の経路は2通りあります。先ずはピペッターの内部が汚染されている場合です。ピペッターにチップを付けてDNA溶液を吸った時、液面がチップの途中までしか来ていなくても一部はエアロゾルとなってピペッター内に入り込み汚染します。

この中にかなり付着している。

このピペッターを使って分注操作を行うとネガティブコントロールを含め全ての溶液が汚染されます。もともとのDNAが濃いため例えば10万分の1~100万分の1程度が混入したとしても30サイクル目くらいまでに検出されはじめます。前回の投稿の写真(→リンク)では更に濃いDNAを扱っていたため20数サイクル目でもう増えています(Ct値21くらい)。

この問題の解決方法はフィルターチップの利用です。フィルターチップの利用でピペッター内への汚染と汚染されたピペッターからのコンタミの両方を防ぐことができます。リアルタイムPCR実験を行うならばフィルターチップの利用は必須です。普通のチップとくらべてかなり割高ですが、コンタミによる実験のやり直しが減るので結局費用はそれほどかさみません(リアルタイムPCR試薬は高いので再実験による出費はかなり多いです)。むしろ再実験にかかる労力が減らせます。

マストアイテム、フィルターチップ。

僕も以前は注意深く操作すればフィルターチップを使う必要はないと思っていました。僕を含め研究室の皆がこの実験を始める前は自分の実験手技に自身があったのですが、誰一人フィルターチップなしでコンタミを防ぐことはできませんでした。

フィルターの位置が高すぎてピペッター先端に当たる場合があるのでサンプル品で確認してから買うとよい。

補足ですが、DNAの希釈系列を作る時は同じチップで希釈系列を作ってはいけません。例えば10倍毎の希釈系列を作る時を考えます。全てのチューブに予め90uLの水やバッファーを入れておき、最初のチューブにDNA原液を10uL加えピペッティングで混合。そのまま同じチップで10uL吸って次のチューブに加えピペッティングで混合。以下同様に10uLずつ同じチップで次のチューブに加えて希釈系列を作るとします。

この時最初の原液を吸った時点でかなりの量のDNAがチップにへばりつきます。ピペッティング操作くらいでは全て流れ落ちません。そのチップで低い濃度の希釈液を作るとチップについたDNAが一部洗い出され混入します。最初のDNAが濃いためチップから洗い出される量もそれなりの量です。こうやって希釈系列を作ると濃度が低いはずの希釈段階でDNAの増幅が早いうちから検出されはじめます。その場合、例えば最後の3つの希釈系列のCt値が全て同じくらいになり(濃度が高い方にそろう)検量線が寝てきます(タイトルの図を参照してみてください)。もったいないと思ってしまいますがフィルターチップは操作ごとに毎回変えましょう。

短いチップだと矢印のところがチューブの縁に接触しがち。

もう1つの経路はチューブの壁面にDNAがついており、短いチップで液を吸い取るときにチップより上のピペッター本体先端部分が壁面に触れDNAに汚染される場合です。汚染の経路がチップを介さないのでフィルターチップの使用では解決しません。

これも遠沈管の縁にピペッター先端が触れている。

解決方法は簡単で、注意深く分取操作をすることです。みなさん自分のピペッター操作の癖をもう一度確認してみましょう。1.5mLチューブや遠沈管などから液を分取する際、知らず知らずのうちにピペッターの先端を壁面につけてしまっているものです。明日の実験はピペッターの先を拭いてきれいにすることからはじめましょう。

15mLの遠沈管ではどうやってもほぼ接触する。

どのタイミングで混入するか?
上記のように一番コンタミのリスクが有るのは希釈系列を作るための濃いDNA溶液を扱うときです。その時点でピペッターなどが汚染されるとそれ以降に処理したチューブや溶液は全て汚染される可能性があります。

フタの裏の飛び出た部分が親指に接触。

また他にもチューブを開閉するときに汚染が起こります。1.5mLチューブの蓋は片手で開け閉めすることが多いですが、このときに親指の内側が汚染されるのです。DNA溶液をボルテックスやタッピングで混ぜた時、蓋のうらにDNA溶液が付着します。スピンダウンして溶液がチューブの下に落ちたとしても極微量のDNA(しかし検出されるには十分な量)は蓋の裏についたままになります。この後チューブを片手で開けた時親指の裏が汚染され、そこから次のチューブに汚染が広がっていきます。

こういうのを使ってもいいかも。

これらを解決するには丁寧な操作も大事ですが、試薬を調整する順番を変えることがかなり有効です。

例えば一般的なリアルタイムPCRによる定量実験では、

・ サンプルDNA溶液及び検量線用DNA希釈溶液の準備
・ リアルタイムPCR反応溶液の作成(試薬と水、プライマーの混合)
・ 反応溶液の分割とサンプルDNA、検量線用DNA溶液の添加
・ PCRチューブまたはプレートへの分注

の操作が必要です。

このときに上から順番に行うとまずはじめに濃いDNA溶液を扱うことになりコンタミのリスクがいきなり上がってしまいます。これを避けるために実験操作ではまず始めにPCR反応溶液の作成を行います。次に反応溶液をサンプルと希釈系列、及びネガティブコントロールの数だけ1.5mLチューブに分割し、さらにネガティブコントロールのチューブにはこの時点で水を加えます。

そこまでやり終え、この段階で初めて希釈系列作成用のDNAを実験台に持ってきます(この時点まではプライマー以外のDNAは実験台にすら持ってきていてはいけません)。そして希釈系列を作るのですが、この時僕は先程作成したPCR反応液が入ったチューブは実験台の引き出しの中にしまっています。見えないくらい小さなDNA溶液が飛び散ってチューブに着くのを防ぐのが目的です。


希釈系列を作り終わったらとりあえず手についたかもしれないDNAを洗い流すために、きれいに手を洗います(実際には手袋をはめているので手袋を洗うことになります)。そして引き出しから反応液のチューブを取り出し、希釈したDNAやサンプルDNAを加え、混合した後、3つのPCRチューブ(またはプレートの3つのウェル、トリプリケートの場合)に分注します。希釈したDNAを加えていく時は必ず薄いDNA溶液から順番に加えるようにします。

また細かいようですが、プレートなどに分注する時は溶液を吸った状態のチップがすでに分注済みのウェル(いま分注しているものよりも薄いDNAが含まれているはず)の上を通らないようにします。プレート内のウェルの配置をデザインし直して分注操作中になるべくコンタミが起こりにくい配置にすることも効果があります。

希釈系列を作る前にPCR反応溶液を調整してほっておくとポリメラーゼがヘタってしまうと心配されるかもしれませんが、今の酵素は丈夫にできているので数十分~1時間程度なら大丈夫です(ちなみに僕はTOYOBOのThunderbirdを使っています)。もし心配なら遮光して冷蔵庫に入れておくと良いでしょう。

上記の様に試薬調整の順番を変えるとネガティブコントロールのチューブに水を加えるのは実験台にコンタミのもととなる濃いcDNA溶液を持ってくる前なので、コンタミの起こりようがありません。もしそれでもコンタミしていた場合にはすでに水やプライマー希釈液、あるいはPCR試薬が汚染されている可能性があります(僕もフィルターチップを使い始める前にPCR試薬をコンタミさせてしまったことがあります)。

水やプライマー希釈液はもう一度新しいものを用意し、またもしPCR試薬がコンタミしている場合には新しいストックを下ろすか購入するしかありません。コンタミしてしまった試薬は他の遺伝子の検出には使えるので捨てないようにしましょう。

いろいろと書きましたがこれらを実行することでコンタミはかなり減らせます。注意することが多すぎてうんざりするかもしれませんが一度手順が完成するとルーティーンワークになるのでそれほど苦にならなくなります。リアルタイムPCR実験は思いのほかお金と労力がかかるのでなるべくやり直しが減るようにすると気分的にも楽になります(先生にも喜ばれる)。
 
最後になりましたがリアルタイムPCR実験で必要なのは、先ずは正確なピペッターワークです。毎回きちんと同じ量を分取できることが重要です。ピペッターの精度管理も大事になります。分取にブレがあると最終的な結果もエラーバーが大きくなって定量もへったくれもなくなります。

参考までに先日の講習会で使ったプロトコールを公開しています。ゲノム研究分野HP(→リンク)からダウンロードできるのでよかったらつかってみてください。

派手にやりやがって・・・


ご質問はゲノム研究分野まで。
内線: 3171
e-mail: mgrc@gifu-u.ac.jp

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