盲点の日本製ピペッター ニチリョーニチペット
4回目のピペッター批評はその社名からパンを作っている会社かと思っていたら実は実験機器メーカーだったというニチリョーから販売されているピペッター、ニチペットが主役です。
(これまでのピペッター批評はこちら→1、2、3)
タイトルで今知ったみたいな書き方をしてしまいましたがニチペットを初めて見たのは15年くらい前です。
当時はギルソンのピペットマンだけが本物のピペッターと思っていたピペッター初心者だったので他の研究室にお邪魔してニチペットを借りて実験していた時にはほんとにちゃんと吸えているのかと疑っていました。
それ以後いろいろな研究室に行った際に時々ニチペットがあるのを見て、意外に持ってる人多いなーと思っていました。なぜか外国の研究室に行った時にもあって誰が買ったのだろうと思いつつも共通ピペッターだったので実験に使っていました。
しばらく使ってわかってきたのですが、本ピペッターは実によく考えて作られています。
ニチペットEX II 200uLタイプ |
まずダイヤルが無段階で回転するので容量が目盛り中のどこにでも設定できます。もちろん目安となる数字や目印はついていますが目印と目印の中間に合わせることもできるので細かな容量設定ができます。
これはギルソンのピペットマンと同じ仕組みです。一方フィンピペットなどは内部のダイアルに切れ込みが入っていてそこでダイアルが止まって容量を設定する仕組みなので決まった容量にしか合わせることができません。
ギルソンのピペットマンはピストンを押したりチップを付け替えたりしているとその衝撃でダイアルが回り容量が少しずつずれてしまいます。ダイアルに固定のためのゴム質のストッパーがついていますがダイアルを回す時に負荷にならないように摩擦力が抑えてあるためどうしても目盛りがずれます。
ピストン根元にあるロックつまみで固定する。 |
一方でニチペットはダイアルが回転しないようにするためのロック機構がシリンダー内についているためロックをしておけば使用中に容量がずれることがありません。ダイアルと独立しているのでロックを外せば容量設定時にはスムーズに設定変更が行えます。
専用のロック機構があるとチップを付け替るたびに容量がずれていないか確認する必要がないので繰り返し操作でのストレスが減ります。
またピストンの頭の部分(指で押すところ)がカーブを描いており押した時に指の腹全体で押すことができます。他のピペッターはちょうどピストン頭の角の部分が指の腹に当たるものが多く特に押し始めは点で指に力がかかってしまいます。 細かな部分ですが、なかなか考えて設計されています。
メンテナンス性にも配慮してあり特別な工具なしで分解できるようになっています。チップイジェクターは根本のネジによって着脱が可能になっており、ピストンとシャフトの間もネジ式で嵌めこんであるのでシャフトを回せば簡単に外して清掃ができます。
また一部の製品については本体がピストン部を含め丸ごとオートクレーブ可能なうえUV耐性が強い素材が使われているため安全キャビネット(またはクリーンベンチ)内で使用するときにもお勧めです。僕は現在ニチペットEX IIを一揃え安全キャビネット内に常駐させて使っています。
EX II はUVに強いので安全キャビネット内で使用可能。 |
安全キャビネットの使用前と使用後にはUVランプをしばらくつけていますが約1年の使用で外観に大きな変化はないようです。
ニチリョーのホームページへ行くとニチペットEX(EX IIの前身)がノーベル博物館に寄贈されたと宣伝されています。iPS細胞を開発した京都大学の山中先生が本製品を培養実験で使用していたことから博物館での展示が決まったそうです。
その宣伝のあまりのはしゃぎっぷりにまあ落ち着けと言いたくなりますが、本製品の使い勝手の良さは特筆すべきものがあると思います。
この欄のピペット批評では僕の好みから重量とピストンの軽さに重きを置いていますが、それらの点はどうでしょうか。
まず重量ですが、ギルソンピペットマンよりもほんの少し軽いくらいでしょうか。あまり変わりません。ピストンのストロークもギルソンと同じかやや軽いくらいだと思います。激軽のフィンピペットに比べればまだまだ重いです。この点では僕自身の評価はあまり高くありません。
しかしながら前述の使いやすさはこれらを補って余りあると思います。最後の星取表での評価は軽さ重視なので低くなりますが、とくに僕みたいな軽いピペッターマニアでなければ考慮に入れるべき製品だと思います。
ニチペット Premium 2uLタイプ |
そして続けて紹介したいのがニチペット最新製品であるニチペットプレミアムです。多分2-3年前くらいに発売された製品ではないかと思うのですが、これがかなりの出来栄えなのです。
プレミアムを始めてみたのは一昨年の日本分子生物学会の展示ブースでした。見た目は前身のEX IIからかなり変わっており個人的にはフィンピペットに近い形状だと感じました。
そのブースにはニチリョーの社長も来ており、「ぜひ手に持ってみてください!」とかなり積極的に言われ本製品を持ってみたところその持ちやすさに内心驚きました。人間工学を追及して形を考えたということでしたが確かに持った時に手の内側のカーブに沿ってぴったりと手に収まります。
またチップのイジェクトが楽になるように先端の材質を工夫してあるなど特徴を力説されました。セラミクス製で耐久性も高まっているのだそうです。その時の話では社長は以前は別の会社のピペッターを販売していたそうなのですが、理想のピペッターを自分で作りたくなったのがニチペット開発の動機だったようです。
Premiumのロック。個人的にはEX IIの形ほうがロックしやすいと思うのですが・・・。 |
さて、今年に入りプレミアムのデモ品をかりる機会がありました。すべての容量タイプの製品を1か月ほど使ってみたのですが、前述のロック機構を始めとしたEXIIの利点はそのまま引き継いだ作りになっています。社長の言っていたようにチップのイジェクトもスパッと気持ちよく行えます。
また個人的に気に入ったのは軽さです。重量とストロークはかなり軽くなっていました。ストロークの軽さに関しては1000uLタイプ以外の製品は愛用しているフィンピペットデジタルと同等でした。使っていて分かったのですが、どうやら1000uLタイプだけわざとストロークを重めに設定しているようなのです。
1000uLタイプのピペッターは他社の製品も含めて粘性の低い溶液(水やTEバッファーなど)を吸った時に勢い余ってピペッター内に吸い込んでしまいがちです。本製品ではそうならないようにピストンがわざとゆっくり戻るように設定してあるみたいです。
これがわかったときにはその細かい配慮に感心してしまいました。
この先いろいろ書くと長くなりそうなので結論を言うと、ニチペットプレミアムは現時点で僕が最もおすすめするピペッターです。手に持った時の感触や使い勝手の良さなどどれをとっても最高のバランスで仕上がっていると思います。
プレミアムならギルソンのような重めのピペッターが好みの人でも、僕のように軽さ重視の人でも、両方を満足させられるのではないかと思います。ピペッターの購入を考えている方は一度デモ品を使って検討されることをお勧めします。ただし価格設定は高めです。
しかしながら個人的に使ってみた問題点がただ1つ。僕が使っているチップとやや相性が悪くいまいちチップのはまりが良くありません。相性の良いチップだと抜群の性能を発揮すると思います。でも僕が使っているチップはニチリョーの製品です。なぜ同じ会社の製品なのに合わないんでしょうか!? 社長さん!
(追記:チップとの結合部に関しては再設計が行われているようです。)
総評: 適当に入った蕎麦屋が最高にうまかった、みたいなピペッター。おやじ、修行したな。ピペッター愛が凝縮したような製品。本当におすすめです。
残念ながらみんなデモ機。自分のではない。 |
Nichiryo ニチペットEXII
本体の軽さ ☆☆
ストロークの軽さ ☆
値段のやすさ ☆☆☆
Nichiryo ニチペットプレミアム
本体の軽さ ☆☆☆
ストロークの軽さ ☆☆☆☆
値段のやすさ ☆☆
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