そこで今回の投稿では以前の公開講座の内容をご紹介します。参考までにご覧ください。
2013年はゲノム研究分野からは「先端生命科学の2大革命」と題した講演をおこないました。
以下は当日参加者の皆さんに配布した資料から抜粋した講演のあらすじです(一部加筆、訂正してあります)。
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先端生命科学の2大革命
iPS細胞と次世代遺伝子診断
はじめに
現在、生命科学の分野で革命的とも言える2つの変化が起こっています。1つは京都大学の山中先生が開発したiPS細胞を使った研究の発展、もう1つはDNA配列解読装置の驚異的な高性能化による遺伝子解析法の進歩です。本講義ではこれら2つの変革が私たちにもたらす変化について将来の可能性を交えながら紹介します。
iPS細胞と再生医療
iPS細胞 (induced pluripotent stem cell)は万能細胞とも呼ばれるように、身体を構成するあらゆる細胞に変化可能な細胞です。
通常我々の体にある細胞は特定の種類の細胞しか作ることができません。例えば皮膚の細胞は新陳代謝により新しい皮膚を作ることはできますが、骨や神経など別の種類の細胞を作ることはできません。同じように血液細胞は骨髄にある血液幹細胞からのみ作られ、筋肉は筋肉の元になる筋肉幹細胞からのみ作られます。
この仕組みは新陳代謝や軽いけがなどで部分的に失われた細胞を修復するには都合が良いのですが、大きな怪我や病気で様々な細胞から構成される組織や器官全体を失った場合には効果がありません。あらゆる細胞に変化できる万能細胞は通常我々の体には存在しません。
受精卵から私たちの体が出来上がる過程のことを発生といいます。発生のごく初期の段階の受精卵は未熟な細胞の集まりであり神経細胞や筋肉細胞はまだ 出来ていません。この時期の受精卵はいろいろな種類の細胞へと変化する万能細胞です。この受精卵から胚性幹細胞(Embryonic Stem Cell, ES細胞)がアメリカの科学者によって作成されました。
ES細胞は万能性を持っており失われた組織を再生するための再生医療への応用が期待されます。しかしES細胞は受精卵を壊して作る必要があることや、他人に移植した場合には免疫による排除を受けてしまう可能性があることから怪我や病気の治療に一般的に使用することが困難です。
しかしながらもしES細胞と同等の細胞を我々の体の細胞から作ることができれば受精卵を壊さずにすみ、しかも移植した場合も自己の細胞なので免疫による排除も受けないことから治療に大いに役に立つと考えられました。
現在、生命科学の分野で革命的とも言える2つの変化が起こっています。1つは京都大学の山中先生が開発したiPS細胞を使った研究の発展、もう1つはDNA配列解読装置の驚異的な高性能化による遺伝子解析法の進歩です。本講義ではこれら2つの変革が私たちにもたらす変化について将来の可能性を交えながら紹介します。
iPS細胞と再生医療
iPS細胞 (induced pluripotent stem cell)は万能細胞とも呼ばれるように、身体を構成するあらゆる細胞に変化可能な細胞です。
通常我々の体にある細胞は特定の種類の細胞しか作ることができません。例えば皮膚の細胞は新陳代謝により新しい皮膚を作ることはできますが、骨や神経など別の種類の細胞を作ることはできません。同じように血液細胞は骨髄にある血液幹細胞からのみ作られ、筋肉は筋肉の元になる筋肉幹細胞からのみ作られます。
この仕組みは新陳代謝や軽いけがなどで部分的に失われた細胞を修復するには都合が良いのですが、大きな怪我や病気で様々な細胞から構成される組織や器官全体を失った場合には効果がありません。あらゆる細胞に変化できる万能細胞は通常我々の体には存在しません。
受精卵から私たちの体が出来上がる過程のことを発生といいます。発生のごく初期の段階の受精卵は未熟な細胞の集まりであり神経細胞や筋肉細胞はまだ 出来ていません。この時期の受精卵はいろいろな種類の細胞へと変化する万能細胞です。この受精卵から胚性幹細胞(Embryonic Stem Cell, ES細胞)がアメリカの科学者によって作成されました。
ES細胞は万能性を持っており失われた組織を再生するための再生医療への応用が期待されます。しかしES細胞は受精卵を壊して作る必要があることや、他人に移植した場合には免疫による排除を受けてしまう可能性があることから怪我や病気の治療に一般的に使用することが困難です。
しかしながらもしES細胞と同等の細胞を我々の体の細胞から作ることができれば受精卵を壊さずにすみ、しかも移植した場合も自己の細胞なので免疫による排除も受けないことから治療に大いに役に立つと考えられました。
ヒントはかなり前に示されていました。1958年にイギリスの科学者John Gurdonはカエルの体の細胞から遺伝子(DNA)の入った核を取り出して、受精卵の核と交換しました。その結果この卵は正常な個体へと発生することが確認されました。この事実は筋肉や皮膚に変化した細胞がその過程で遺伝子を失っているわけではなく核の中には受精卵と同じ遺伝子を保存していることを示しています。
同様の方法で1997年には体細胞の核を移植した受精卵からクローン羊(ドリー)が誕生しました。体細胞の核も受精卵に移植することで万能性を回復するのです。
現在では受精卵に移植した体細胞の核にはリプログラミングと呼ばれる遺伝子の初期化が起こっていることがわかっています。体細胞が神経や筋肉などとして変化して機能するためには細胞種ごとに異なった遺伝子が働く必要があります。
必要のある遺伝子だけが活性化される一方で必要のない遺伝子は機能が抑制されています。そうすることで細胞はその細胞特有の機能を発揮できますが万能性は失われます。万能性を回復するためには遺伝子の活性化、不活性化の状態を受精卵またはES細胞と同じ状態に戻す(初期化-リプログラミングする)必要があります。
受精卵やES細胞の中ではリプログラミングのための遺伝子が活発に働いていると考えられていました。ES細胞中で活発に働いている遺伝子の探索からリプログラミングに必要な4つの遺伝子が京都大学の山中研究室で発見され、それらを使って作られた世界初のマウスの万能細胞(iPS細胞)が2006年に報告されました。翌年にはヒトの皮膚細胞由来のiPS細胞が作成されたと報告されました。
OCT4, SOX2, KLF4, c-MYCと呼ばれる4つの遺伝子を人為的に体細胞で活性化することで体細胞核の遺伝子が初期化され万能性が獲得されるのです。実験手法が容易なことからあっという間にiPS細胞の作製法は世界中の研究室に広まり再生医療研究の主流になりました。
2013年の8月から理化学研究所主導でiPS細胞を使った世界初の臨床研究が始まりました。加齢黄斑変性症の患者が対象です。加齢黄斑変性症は網膜内にある色素上皮細胞が破壊され視力が低下する疾患です。本疾患の患者から採取した皮膚の細胞からiPS細胞を作成し、更に色素上皮細胞へ変化させ、細胞を提供した患者自身の網膜内に戻すことで視力を回復させる試みです。
今回の臨床研究はiPS細胞による再生医療の安全性の検証を第一の目的としており、このような臨床研究を積み重ねることでiPS細胞を再生医療へ利用する為の方法が確立していくと考えられます。原理的にはいかなる組織や器官でもiPS細胞によって修復が可能です。特に臓器移植でしか助からない病気の患者さんに対してはiPS細胞を利用した再生医療は大きな希望となります。
今回の臨床研究はiPS細胞による再生医療の安全性の検証を第一の目的としており、このような臨床研究を積み重ねることでiPS細胞を再生医療へ利用する為の方法が確立していくと考えられます。原理的にはいかなる組織や器官でもiPS細胞によって修復が可能です。特に臓器移植でしか助からない病気の患者さんに対してはiPS細胞を利用した再生医療は大きな希望となります。
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