これに関連して過去の公開講座の内容を紹介しています。
今回の投稿は前回のつづきになります。
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(2013年 公開講座より)
先端生命科学の2大革命
iPS細胞と次世代遺伝子診断
(前回の続きです)
超高速シーケンサーによる遺伝子解析と健康への応用
現在ヒトの全遺伝子配列を短時間ですべて解読する為の機器の開発が進んでいます。それらの機器は次世代シーケンサーと呼ばれ、ヒト一人分の全遺伝子配列(DNAの全情報)を数時間のうちに解読してしまいます。全遺伝子配列を解読することで病気や体質に関係する遺伝子の個人差を発見することができ、病気の診断や治療、予防に役立つと期待されています。次は次世代の遺伝子診断について紹介します。
現在ヒトの全遺伝子配列を短時間ですべて解読する為の機器の開発が進んでいます。それらの機器は次世代シーケンサーと呼ばれ、ヒト一人分の全遺伝子配列(DNAの全情報)を数時間のうちに解読してしまいます。全遺伝子配列を解読することで病気や体質に関係する遺伝子の個人差を発見することができ、病気の診断や治療、予防に役立つと期待されています。次は次世代の遺伝子診断について紹介します。
現在ヒトには2万数千個の遺伝子と、同じく2万個ほどの遺伝子様構造(注1)が見つかっています。遺伝子の配列は個人の間で微妙な違いが有り、その違いがその人の外見や運動能力、性格や体質などいろいろな性質に影響を与え個性を生み出しています。
一方で遺伝子配列の違いが遺伝子機能に大きな影響を及ぼし病気へと繋がる場合があります。原因となる遺伝子が判明している病気も多くあり、そのような遺伝子の機能不全により引き起こされる病気は遺伝病と呼ばれています。
原因がわかっている遺伝病に関しては遺伝子配列を調べる事により発病前に診断が可能です。これを生まれる前の胎児に応用したのが出生前診断です。複数の遺伝病や染色体異常を対象にすでに実施されています。倫理的な問題はあるものの治療をなるべく早く開始する為には重要な手法であると言えます。
遺伝病には分類されていませんが現在では高血圧や肥満、脳卒中など一部の生活習慣病についても特定の遺伝子配列の違いが発病の可能性を上げることが研究からわかってきています。多くの例では遺伝子中の1つのDNA配列の違いが遺伝子機能を大きく低下させています。
DNA配列の違いを判別することで特定の病気になりやすいかどうかが判定できます。遺伝病を含め様々な病気や体質がその人の持つ遺伝子の影響を受けています。全ての遺伝子についてその配列を知る事ができれば多くの病気の予防や治療に役に立つと考えられます。
しかし全遺伝子配列の解読は簡単ではありません。その理由は60億個というヒトが持つ遺伝子の配列(DNA配列)の大きさにあります。
私たちは両親からそれぞれ半分ずつの遺伝子を受け継ぎます。原理的には片方の親から受け継ぐ遺伝子の全てを使えばヒトの体を形作ることが可能で生命活動を営むことができます。"ゲノム"とは生物個体に必要な全ての遺伝子を合わせた1セットのことを言います。
私たちは両親からそれぞれ半分ずつの遺伝子を受け継ぎます。原理的には片方の親から受け継ぐ遺伝子の全てを使えばヒトの体を形作ることが可能で生命活動を営むことができます。"ゲノム"とは生物個体に必要な全ての遺伝子を合わせた1セットのことを言います。
したがって私達は2セット(2ゲノム分)の遺伝子を持っていることになります。1ゲノムあたりのDNA配列はヒトでは約30億個あるため、個人が持つDNA配列は2ゲノム分(約60億個)あることになります。DNA1つを1文字に置き換えると、原稿用紙約1千5百万枚分、単行本だと約5万冊分くらいの情報量になります。これらを全て解読しなければなりません。
ヒト遺伝子の全配列を明らかにしようとする試み(ヒトゲノムプロジェクトと呼ばれます)は1990年に開始されました。日本円にして全体で数千億円規模の予算がつぎ込まれ、世界中の研究者が協力しあって精力的に解読が行われました。
ヒト遺伝子の全配列を明らかにしようとする試み(ヒトゲノムプロジェクトと呼ばれます)は1990年に開始されました。日本円にして全体で数千億円規模の予算がつぎ込まれ、世界中の研究者が協力しあって精力的に解読が行われました。
多大な予算と労力にもかかわらず膨大な遺伝子配列を解読するためには技術的な限界があり、全解読には十年以上の年月を要し、2003年にやっと解読終了が宣言されました。
この時のヒトゲノムロジェクトでは数人分のサンプルについて配列の解読が行われましたが要した年月と費用は膨大で、私達一人ひとりの遺伝子配列を同じ手法で解読することはとても不可能です。
個人の全遺伝子配列を解読し病気の予防や診断、治療に役立てるためには遺伝子配列解読方法の根本的な改良と費用の抑制が必要でした。
この時のヒトゲノムロジェクトでは数人分のサンプルについて配列の解読が行われましたが要した年月と費用は膨大で、私達一人ひとりの遺伝子配列を同じ手法で解読することはとても不可能です。
個人の全遺伝子配列を解読し病気の予防や診断、治療に役立てるためには遺伝子配列解読方法の根本的な改良と費用の抑制が必要でした。
アメリカの国立衛生研究所(NIH)は低価格で高速に遺伝子の配列を決定する技術を生み出すため膨大な予算をつぎ込み次世代の遺伝子配列解読装置(次世代シーケンサー)の研究開発を研究者たちに促しました(費用を1000ドル程度に抑えることが目標とされたため"1000ドルゲノムプロジェクト"と呼ばれました)。
競争的な資金の活用により複数の研究グループが独自の技術を開発、改良を重ねコンピューターを使った情報処理技術の進展も相まって次世代シーケンサーの開発は短期間のうちに猛烈な勢いで進んでいきました。
そしてついに2005年にアメリカの454 Life Sciences社から初の次世代シーケンサーが発売されました。この時はまだヒトの全遺伝子配列を解読するには数ヶ月を要し、精度も高くありませんでした。しかしながら初期のヒトゲノムプロジェクトと比較すると大きな飛躍でした。
その後次世代シーケンサーは他の企業からも続々と発表されており、現在では精度は低いものの数時間でヒト一人分の遺伝子配列を解読することが可能になっており費用も数十万円程度まで下がってきています。
その後次世代シーケンサーは他の企業からも続々と発表されており、現在では精度は低いものの数時間でヒト一人分の遺伝子配列を解読することが可能になっており費用も数十万円程度まで下がってきています。
新たな技術の開発は今もなお進んでおり、第3世代や第4世代、第5世代シーケンサーと呼ばれるそれらの装置によって近いうちに私達の遺伝子配列は数時間で正確に解読することが可能になり、その費用も1000ドル(10万円)以下になると考えられます。
例えば健康診断などで自分のサンプル(血液や唾液などDNAを含むもの)を提供し10万円程度を支払うことで自身の持つ全遺伝子配列を解析してもらえるようになる日が来るかもしれません。自分の遺伝子配列の特徴から罹患しやすい病気がわかり、高血圧や肥満などのなりやすさを指標にして日常生活での効果的な予防方法をとることが可能になるでしょう。
もし不幸にも怪我や病気で体の組織や器官を大きく損傷した時にはiPS細胞を利用して失われた組織や器官を再生し元の健康な体に戻ることができるかもしれません。iPS細胞は自分の分身でもありますし、遺伝子配列情報は究極の個人情報とも言われます。
これらの技術の取扱いは重要に行われるべきですが、私達人間がこれまでに発明し利用してきた多くの科学技術と同じように、正しい目的と方法で取り扱えば私達の生活をよりよいものにしてくれるでしょう。それらの新しい変化がもたらす希望ある社会を思い描いていただければ幸いです。
(注1): 近年典型的な遺伝子とは働き方が異なる遺伝子様の配列が多数見つかってきました。これらはnon-coding RNA(ノンコーディングRNA)と呼ばれており、典型的な遺伝子がタンパク質の形で機能するのとは対照的に、RNAという核酸の形で機能します。多くは他の遺伝子の働きを調節することで私達の身体に多彩な影響を与えます。
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