Wednesday, June 5, 2019

プラスミドを使ったコンピテントセルのトランスフォーメーション


以前の投稿でコンピテントセル(ケミカルコンピテントセル)の作成方法を紹介しました。今回は実際にコンピテントセルにプラスミドを導入する方法(トランスフォーメーション)を紹介します。




試薬

コンピテントセル以外に必要な試薬の作り方です。
・LB液体培地
 レシピ1(おすすめ)
  水に溶かすだけのLB培地粉末を溶かしてつくります。たとえばこれ
  精製水(脱イオン水で十分)に規定量を溶かした後に100mL程度に
  小分けしてオートクレーブし、室温で保存します。
 
 レシピ2(めんどくさいほう) 1L調整時
  以下の試薬を計量し精製水に溶かした後pHを7.0-7.5程度に調整し、
  小分けしてオートクレーブ。室温保存。個人的にはメスアップは必要では
  ないと思います。適当に1Lに合わせるくらいで十分。もしくははじめから
  精製水を1L加えてもそれほど問題ありません(液量が1Lを超えますが)。

                  Tryptone             10g
                  Yeast extract        5g
                  NaCl                     5g または 10g
                  H2O                    1L程度

・LB寒天培地
 レシピ1(おすすめ)
  これも水に溶かすだけのプレミックスを使います。規定量を三角フラス
  コに量りとり精製水を加え、アルミ箔で蓋をしてオートクレーブで試薬
  と寒天を溶かします(121℃, 20min)。
  
  フラスコを取り出した後、60℃くらいまで冷めたら抗生物質溶液を加え
  てフラスコ全体を軽く回して全体を混ぜ、寒天が固まる前にディッシュに
  分注し、一晩室温放置して固めます。 4℃で保存します。(固まった直後
  に冷蔵すると水が出てくるので、最低一晩は室温において余計な水分
  を飛ばしたほうがよいです。)

 レシピ2(ちょっとめんどくさいほう)
  液体培地と同じ割合で必要分の試薬をフラスコに量りとり、さらに寒天
  (バクトアガー)を最終濃度が1.5%になるように追加し  (100mLあたり
        1.5g)、精製水を加えてオートクレーブします。もしくは上記LB液体培地
        を必要量とって寒天を加えてオートクレーブでもいいです。
        オートクレーブの後はレシピ1と同じです。

・抗生物質溶液
 アンピシリン (Stock濃度:100mg/mL, 使用濃度: 50-100μg/mL)
  アンピシリンナトリウム粉末を水もしくは70%エタノールに溶解。
  水で溶かした場合には20μmのフィルターでろ過する。小分けして
  −20℃保存。

 カルベニシリン (Stock濃度:100mg/mL, 使用濃度: 50μg/mL)
  アンピシリン代替品。 サテライトコロニーが出にくいのでおすすめ。
        水で溶かした後20μmのフィルターでろ過し、小分けして−20℃保存。

 カナマイシン (Stock濃度: 10-25mg/mL, 使用濃度: 50μg/mL)
        水で溶かした後20μmのフィルターでろ過し、小分けして−20℃保存。

    クロラムフェニコール (Stock濃度: 20mg/mL, 使用濃度: 20μg/mL)
        100% EtOHで溶かして小分け後、−20℃保存。

・その他
    X-gal (5-bromo-4-chloro-3-indolyl- beta-D-galactopyranoside):
        40mg/mL in DMFA (dimethyl formamide) (approx. 100mM)
    
    IPTG (Isopropyl -β-D - thiogalactopyranoside):
        25mg/mL in ddH2O (approx. 100mM)
 
    いずれも小分けにして-20℃で保存。


トランスフォーメーションの流れ(しっかりやるバージョン)


(準備)
抗生物質の入ったLBプレートを37℃のインキュベーター、または室温で温めておきます。−80℃で保存していたコンピテントセルのチューブを必要本数分、氷上で解凍します。カラーセレクション(青白判定)を行う場合にはX-galとIPTG溶液を準備しておきます。ウォーターバスを42℃にセットしておきます。

(手順)
コンピテントセルのチューブにプラスミドを添加します。添加量はコンピテントセル溶液の10%までにします(コンピテントセル溶液が100μLの場合にはプラスミドは10μLまで)。コンピテントセルのタイターから計算して、入れるプラスミドの濃度と量を調整します。

ピペットチップの先で軽く混ぜて(もしくは軽くタッピングをして)プラスミドと大腸菌を混合します。

氷上に20~30分間おきます。まだの場合にはこの間にウォーターバスを42℃にセットします。

42℃で45秒間ヒートショックを与えます。

抗生物質が入っていないLB液体培地を加えてピペッティングでゆっくり混ぜます(全量が1mL程度になるように加えるLB培地の液量を調節する)。

37℃で1時間程度インキュベートする(前培養)。

3000rpm (または 300 xg程度)で5分間遠心分離を行い大腸菌をペレットにする。

50μL程度残して上澄みを捨てる。

残りの50μLの培養液に大腸菌をピペッティングで懸濁し、プレート上に滴下する。

スプレッダーで塗り広げる。

プレートの上下を逆にして(寒天を上にして)、37℃のインキュベーターで一晩培養する。

翌日コロニーが生えてくるので、コロニーPCRや液体培地での培養に進む。


ヒートショックでなぜプラスミドが入るのかはよくわからないですね。冒頭の絵のように大腸菌が温度にびっくりしてそのどさくさでプラスミドが入っているイメージを持っていたのですが、違いそうです。

ところで上記のいくつかのステップはかなり時間と手順を端折ってもよいようです(こちらのwebサイトで詳しく述べられていますので是非見てみてください。以下はそのサイトを参考にしたプロトコールです)。

実はヒートショックもやらなくても効率はあまり変わらないそうです。とくに抗生物質がアンピシリン(カルベニシリン)の場合には前培養は省けます。それらのことを考慮して手順を簡略化したのが下の方法です。(準備)のところは一緒です。

トランスフォーメーションの流れ(スピード重視バージョン)

コンピテントセルを氷上で溶かす。

プラスミドを加える。

プレートに塗り広げる。

プレートの上下を逆にして37℃で一晩培養する。

翌日コロニーが生えてくるので次の実験に進む。

(抗生物質がアンピシリンやカルベニシリンでない場合はプラスミドを加えた後で前培養を行います。)

かなりのスピード感ですね。僕もなかなかここまで簡略化する勇気がなかったのですが、やってみるとちゃんとコロニーが生えてきます。ヒートショックとは何だったのか?

いずれにせよ大いに時間の節約になります。

ではまた。



ご質問はゲノム研究分野まで。
内線: 3171
e-mail: mgrc@gifu-u.ac.jp

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