Monday, October 16, 2023

Watson NEXTY

キノコ頭の気になるあいつ Watson NEXTY



今日は僕が現在いちばん使っている一軍ピペッターの紹介です。だいぶ前(2020年)にこの記事を書いていたのですが、終売になってしまったので公開をためらっていましたが、せっかくなので投稿します。紹介するのはWatson (ワトソン) のNEXTYというピペッターです。

Watsonとは??

と思った方はどれくらいいるでしょう。Watsonは深江化成のブランドです。深江化成とは??? それはよくわかりません。これらのブランドやメーカーがどれくらいの知名度なのかは知りませんが、個人的にはピペットチップの会社のイメージです。

以前から何度か書いているのですが、僕は軽いピペッターが好きです。重量というよりはストロークの方の軽さです。また、使いやすさと値段の安さも重要な評価ポイントです(正確性は言わずもがなですが)。

その辺りを気にして色々なピペッターを使っていますが、個人的に今、(追記:投稿の時点でも) WatsonのNEXTYがブームです。今日は久しぶりのピペッター評をしてみたいと思います。

Watson NEXTY

エントリーNo. 5
Watson NEXTY(もう売ってないけど…)


NEXTYについては購入するかなり前からチラシ等で知っていたのですが、その時はあまりぐっと来ていませんでした。ピペッターの中ではかなり安い値段設定(2万円弱、キャンペーンだと1万円強)(追記:当時)の部類に入っており、同価格帯の他のピペッターをデモ等で使ってみたときのがっかり感からNEXTYにも全く期待していませんでした。しかし・・・

たまたま研究室の人員が増えてピペッターが必要になった時に代理店の方から紹介されてデモ機を使ってみました。これが実際にピペッターを使うことになる学生に好評だったのと、その時ちょうどまとめ買いキャンペーンで安くなっていたので一式購入しました。

それで時々学生から借りて使っていたのですが、これが使いやすい!!
使いやすいポイントをいくつか挙げてみます。


1)ピストンが押しやすい。
普通のピペッターはピストンの頭の部分(親指で押すところ)がほぼ平らになっていると思います。ピストンを押すときにはほとんど意識することはないのですが、頭の部分を真上から押さないといけません。斜めからだと親指の腹がピストン頭の縁にあたって押しにくくなりスムーズなストロークになりません。そのため無意識に親指の先の関節を曲げ気味にして真上からピストンを押しているはずです。

ふつうはこんな感じで真上から押す。

指を斜めにあてがってもスムーズに押せる。
指の位置はこちらの方が自然。

このピペッターはピストンの頭がキノコ状になっており、斜めから指先をあてても指とピストンがフィットするようになっています。そのおかげで指先に無理な力を入れずにピストンを押すことができます。

またNEXTYはピストンのシャフト部分が太いのですが、これもピストンを押しやすくしています。ピストンのシャフトの部分が細いピペッターではピストンを押すときに少しでも横向きに力が加わると(おそらくシャフトが少したわんで)シャフトがスムーズに動かなくなります。そのためピストンは確実に真上から垂直に押さないと押しにくくなるつくりになっています。

ギルソンピペットマンとの比較。

しかしながらNEXTYはピストンのシャフトが太いので少々斜めにピストンを押したとしてもシャフトがたわむこともなく(断面がギザギザになっているのはそのため?)スムーズにピストンが下りていきます(以前紹介したフィンピペットも同様の作りです)。この構造とキノコ頭が相まってピストンを押すときに親指に過剰に負荷をかけずにスムーズに押すことができます。細かい点ですが、これらは良くできた作りだと思います。

ターボダイアル

2)容量の設定が素早い。
NEXTYには2つの容量設定ダイヤルがあります。1つはピストンヘッドを動かして容量を変えるダイヤルで普通のピペッターに見られるダイヤルと同様です。2つ目はピストンシャフトの付け根にある大きなダイヤルで、ここを動かすと顕微鏡の粗動つまみのように高速で容量が変化します。Watsonはターボダイヤルと呼んでいます。最大容量から最小容量に変えるときやその逆など大きく容量を変更するときに目盛りがぐんぐん変わっていくので素早い設定が可能です。大雑把にこのターボダイヤルで目的の容量に近づけ、1つ目のピストンヘッドのダイヤルで正確な値に合わせます。

ターボダイアルはピペッターを握ったまま片手で回せる。親指だけでも回せます。

ピペッターによっては容量変更時に回すダイヤルの抵抗が大きくて回している間に指が疲れてくるものもありますが、ターボダイヤルは大きくて回しやすく、抵抗も少ないので回していて疲れることはありません。

ギルソンのピペットマンやニチリョーのピペットのように無段階でダイヤルが変わる方式ではなく、フィンピペットのように最小容量変化(1/1000)ごとにクリック感があるのでダイヤルを回すとカリカリと音が鳴りながら回ります。この作りは好みがわかれると思いますが、クリック感はそれほど強くないため回しにくいことはありません。むしろきっちりとした容量設定ができるので悪くはないと思います。ロック機構もあるので使っていて容量が勝手に変わることもありません。

くぼみにぴったり合うのが気持ちいい。

3)握った感じが気持ちいい。
これは完全に僕の個人的な感想です。NEXTYには握り部分に触れる4本の指に沿ったへこみがあります。そのためそれほど力を入れずに本体を持ってもへこみ部分が全ての指に引っかかってフィットするため、握りやすく出来ています。ただピペッターとしては太めなので、持ちにくいという意見もありました(ちなみにこの意見を言った人は細ピペッターの代表、フィンピペットデジタルを使っているので特に握りにくく感じたのでしょう)。

これらの特徴がNEXTYが一軍に上り詰めた理由です。


・・・と、ここまでは良い面を書いてきましたが、改善してほしいところがすこしあります。まずは本体の材質です。NEXTYを最初に見たときに、ひとによっては少し頼りなく見えるかもしれません。僕も最初に見たときにそう感じました。デザイン自体よりも本体の材質が見た目の印象に影響しているのだと思います。

NEXTYは全体的な材質がザ・プラスチックで色も白色(乳白色)のためあまり丈夫そうな感じがありません。また実際に少し柔らかいのか、チップをつけるときに目標を外してピペッターの先をチップの縁に強めに打ちつけてしまい、チップではなくピペッターの先がへこんだことがあります。

1万円強という低価格を実現するためには材料にもある程度の妥協が必要だと思うので主要部分はこのままでもいいのですが、チップがはまるノズルの部分は強度の高い材質を使ってもらえないかと思います。

本ピペットにはUV耐性がないので安全キャビネット内でUVを当てて使いたいときには適しません(ちなみにそういう用途には少し高いですがニチリョーのニチペットEX IIがいいでしょう)。

ノズル部分以外はオートクレーブ不可ですが、全体のオートクレーブが可能なタイプもあるようです。(追記:この全体をオートクレーブできるタイプのものはまだ売っています。)しかしながら個人的には出来る限りピペッターはどのピペッターでもオートクレーブは繰り返さないほうがいいと思います。(オートクレーブにかけると耐性のピペットでも容量が狂う可能性があります。ピペッターをオートクレーブにかけなければいけないような実験をするときはピペッターをその実験専用にしましょう。)

ノズルが短い。

(追記: あと使っていて気になるのは、15mLのチューブに入った液を取るときに、チップの先がチューブの底まで届かないことです。これはノズルが通常のピペッターよりも短いことが原因です。またそのため、50mLチューブや、小さめの瓶から液を吸い取るときに、容器の内側にノズルの根本が振れやすいです。これはコンタミの原因になります。これについては結構嫌がる人はいそうです。ちなみにフィンピペットフォーカス(→リンク 参照記事)も短期間でなくなりましたが、たぶん同じ理由です。)

こちらは1000uLタイプ。チップの先端がぎりぎり底に届いていない。

ところで細いピペッターが好きな人にはNEXTY -S という新型もあります。NEXTYにあった指に引っかかるへこみもなく一般的なピペッターの形に近いのですが、ターボダイヤルもついてNEXTYと同じように使うことができます(デモ機を借りて試しました)。ノズルも一部の容量で少し長くなっています。ただ残念ながらキノコ頭ではなくなって普通のピペッターと同じ平面頭になっていました。これは個人的には残念です。ちなみにNEXTY-Sのストロークは僕が今まで試した中で一番軽いです。スカスカです。ピペッターの使い過ぎで親指が痛くなる人は一度試してみてはいかがでしょうか。

NEXTY-s

以前Watsonの人と話した時にはNEXTYはあまり売れていないということを聞いたのですが今はどうなのでしょうか。価格と性能の全体的なバランスがとても良いピペッターだと思うので、気に入る人は多いと思います。Watsonの人にはぜひ頑張りつづけてほしいところです。デモ機をバンバン貸し出して使ってもらえばいいと思います。(追記:遅かった…。)

本ピペッターは比較的低価格のピペッターなのですが、さっきも書いたようにさらに安く買えるキャンペーンをときどきやっているようです。買うときはその時が狙い目でしょう。(追記:すみません、売ってません…。)

日頃当たり前のように使っているピペッターですが使う頻度が高い分、自分に合っていないと小さなストレスがどんどんたまっていきます。使いやすいピペッターは実験を進めるうえで潜在的に重要な要素です。皆さんもいろいろデモ機を借りて自分に合うピペッターを見つけましょう。


(総評)
低価格の割にはしっかり作ってあり、結局うちの一軍に定着しているあたり、ポテンシャルはありそうだが、メジャーになれるかは努力次第。終売でも金型は残っているはず。Watsonのひと頑張ってください。

(まとめ)
・NEXTY 
本体の軽さ     ☆☆
ストロークの軽さ  ☆☆☆☆
値段のやすさ   ☆☆☆☆

(追記: 全体をオートクレーブできるタイプは未評価。こちらはまだ売ってます。)


・後継機 NEXTY-s(デモ機での評価)(追記:実はその後買いました。)
本体の軽さ     ☆☆☆
ストロークの軽さ  ☆☆☆☆☆
値段のやすさ   ☆☆☆☆
 
以上今回はWatson NEXTYのピペッター評でした。

1軍の選手たち。ピペッター掛けもキノコヘッドで持ち運びやすい。

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