泣く子も黙る、純正エッペンドルフチューブ(サンプル)。 |
ピペッター批評3回目はドイツeppendorf社のマイクロピペッター 、Referenceを取り上げます。
(参考リンク→ピペッター批評1回目、2回目)
特に理由はないけれど最初そうだったからなんとなく同じことを続けている、ということはよくあることだと思います。ほぼそれとおなじ感覚で僕はこのeppendorf社のピペッターをマイクロインジェクションで使うガラス針にDNAやRNAを注入するためだけに使っています。
リファレンス0.1-2.5uLタイプ |
魚の卵にDNAやRNA、または遺伝子機能を阻害するためのモルフォリノという阻害剤を顕微鏡下で注入(マイクロインジェクション)してその影響を調べる実験をよくやるのですが、卵にそれらの物質を注入するためには普通の注射針では大きすぎるので直径1ミリのガラス管を熱で溶かしつつ引っ張って細長い針状にしたものを使います。そのガラス管にDNA溶液などを充填し、針先を卵に刺して注入します。
ガラス管の内径はとても小さいので普通のピペッターのチップでは中に溶液を入れることができません。そこで先が細い特殊なチップを使います。このチップ(これまたeppendorf社のマイクロローダーというチップです)は先がとても細長くなっているためガラス管内に挿入することができ、針先近くまで溶液を届けることができます。このマイクロローダーチップを使う用途だけにReferenceを使っているので2.5uLまでの低容量タイプの1本しか持っていません。
この操作に重要なのはチップのほうなのでチップが合えばピペッターはどれでも良いのですが、一番初めにこの実験を教わった研究室で同様にReferenceを使っていたので、何故かそれ以後マイクロインジェクションの用途にはずっとReferenceを使っています。理由はそれだけなのですが、後付けで考えるとエッペンドルフのチップにはエッペンドルフのピペッターがきっちり嵌るので良いのかもしれません。
マイクロローダーの箱(左)。長いチップが入っているため同容量の通常のチップ(右)と比べるとかなり縦に長い。 |
Referenceには他のピペッターと違った特徴が幾つかあります。まずこのピペッターにはチップを廃棄するためのイジェクターボタンがありません。ピストンを動かすためのボタンがイジェクターボタンを兼ねています。
普通のピペッターは吸い取った溶液を排出するときにはボタンを押し下げてピストンを押し、チップの内容物を出します。ここで一旦手応えがあってピストンが止まりますが、更に少し強く押し下げるとチップの先に少し残った液を出しきることができます(ブローアウト)。このように大体2段階でピストンが動きますが、Referenceは更にボタンを押し下げることができ、この3段階目の押し下げでチップがピペッター先端から外れて廃棄できます。
つまりチップ廃棄のために別のボタンを新たに押し下げる必要が無いため、1つのボタンを押し下げるだけで溶液の吐出とチップ廃棄が連続してワンアクションで行えます。また容量の変更もこのボタンを回すことで行うためすべての機能がこのボタンに集約されていると言えます。ただ慣れるまではブローアウトのつもりが押し過ぎてチューブの中にチップをイジェクトしてしまうので注意が必要です。
左の青いポッチで容量のロックと解除を行う。 |
容量の設定はかなり細かくできます。また容量の変更はピペッター上部側面の小さなポッチを押した時にだけ可能なのでこのポッチから手を離すことでダイアルがロックされ、操作時の容量ずれが起こりません。 ちょっとコツが入りますがポッチを押しながらの容量変更は片手で行えるので慣れると便利です。
冒頭でマイクロインジェクションだけに使っていると書きましたが、以前はPCRのための試薬調整にも使っていたことがありました。PCR反応を行うチューブがたくさんあるとそれぞれに溶液を分注していくのには結構時間がかかります。特にチップを毎回変えて分注しないといけない時にReferenceを使っていました。チップのイジェクトまでを1つのボタン操作で行えるので試薬調整スピードが上がるからです。しかし今ではマイクロインジェクションで他の薬品の混入があると嫌なのでReferenceはマイクロインジェクション専用にしています。
他の容量のタイプを使っていないのでピストンのストロークの軽さや全体的な使用感についてはあまり詳しく説明できませんが、このワンアクションで全てを行える特徴は多検体を扱わざるをえない実験をする人にとってはとても重宝する機能ではないかと思います。
2.5uLタイプを使った感じだと、ストロークはそんなに軽くありません。ギルソンと同等か少し軽いくらいでしょうか。一方本体は作りがしっかりしている反面、重量は軽めにできています。
他の多くのピペッターの断面が楕円形に近いのに対してこのピペッターはほぼ円形です。したがってどういう向きで持ってもある程度持ちやすくなっています。楕円のほうが手にしっくり来るので僕は好きなのですが、普通のピペッターが太すぎて持ちにくい人にはいいでしょう。また本製品は表面に波型の凹凸があるので滑って落とすことはあまりありません。
カタログを見てみるとeppendorfはこれ以外にも幾つかピペッターを出しているようです。リファレンス2およびリサーチプラスという上位機種があるようです。リファレンス2はリファレンスの進化版、リサーチプラスはイジェクターボタンが独立している通常ピペッタータイプのようです。個人的にはエッペンにはブレずにイジェクターボタン無しで攻めてほしかったです。
先端が金属製なのも特徴的。 |
総評:メインのピペッターとして使ったことがないので個人的には永遠の2番手的存在のピペッター。しかし案外実験のプロは使っているのかもしれない。ワンアクションの簡単操作はスピード勝負の研究者におすすめ。
機会があれば他の容量のものもデモ品を借りて使ってみたいと思います。その時はまた感想を書かせてもらいます。
エッペンドルフ リファレンス(2.5uL容量タイプのみの評価)
本体の軽さ ☆☆☆
ストロークの軽さ ☆☆☆
値段のやすさ ☆☆
次はニチリョーのニチペットを紹介します(→ リンク Nichiryo ニチペット)。
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