Thursday, February 27, 2014

コロニーダイレクトPCR




これまでにゲルからのDNAの切り出しとT-ベクターへのクローニングの方法を説明してきました。

(参考リンク→T-Vectorを使ったサブクローニングライゲーションゲルからのDNAの切り出し

今日は形質転換した大腸菌からプラスミドを抽出せずにダイレクトにPCRを行い目的のDNAがベクターに入ったかどうかをチェックする方法を紹介します。

T-ベクターに遺伝子をクローニングした場合目的のDNAがちゃんと入っているものを選別しなければなりません。DNAの精製具合やT-ベクターの出来栄えによっては目的以外のDNAが入っていたりベクターの両端で結合して何も入っていなかったりします(つまりは空ベクター)。

空ベクターはコロニーの青白判定で青くなるので判別できますが、目的外の断片が入った場合には青白判定は使えません。特にPCR産物をクローニングする際にはよくわからない短い断片が入っていることがあります。

通常は白コロニーを培養してプラスミドを抽出し、制限酵素処理でインサート内の配列を切ってみて予想通りの切れ方をするかどうかや、制限酵素処理ができない場合にはシークエンスを確認して目的のDNAが入ったものを探します。

ベクター内の配列に対応するプライマーをつかってインサートのDNAを挟むようにPCRを行えば増えてくる断片の長さから目的のDNAが入っているかどうかを判別することもできるので制限酵素処理の代わりに使うことができますし、増えてきたPCR産物を制限酵素処理で更に確認しても良いと思います。

普通のPCR反応では精製したプラスミドをテンプレートにPCRを行うため、先ずは生えてきたコロニーを1つずつ液体培地で培養した後、プラスミドを抽出してPCRのテンプレートに用いなければなりません。しかしこの方法ではハズレのコロニーも培養してプラスミド抽出の操作を行わなければいけません。

特に当たりのコロニーが少ない場合には多数のコロニーからプラスミドを抽出する必要があるのでかなりの手間とお金が無駄になります。

生えてきたコロニーからプラスミドを抽出せずにそのままPCRを行えば抽出の手間が省けるのでとても効率よく実験を進めることができます。一方でチェックするコロニーが多いと使用するポリメラーゼの量も増えます。節約のために反応量を少なくし、安い酵素を使ってPCRを行うとよいでしょう。

僕は通常使われるTaqポリメラーゼではなくStratagene(現在はAgilent傘下)が出しているPaq5000というポリメラーゼを使っています。聞いた話ではこの酵素は特許ががらみのお金が発生しないので安く販売できるのだそうです。この酵素、正確性はかなり低いのですがとにかく増えます。長さを調べるためのPCRには持って来いです。

以下はその方法です。pBluescriptをベクターとして用いた場合を示します。


コロニーダイレクトPCR

新しいLBプレート(抗生物質含む)の底に線を引き横8マス幅区切りを描きます。区切りはチェックするコロニーの数だけ作ります(下図参照)。僕は試薬調整を簡単にするために8または4の倍数のコロニーをチェックしています。

区切りの中に右から左へ番号を記入します。

LBプレートの裏に記入。番号は右から左へ。

あらかじめPCR反応液を以下のように調整しておきます(下は8サンプル分。必要に応じて増やす。)。

10x Paq5000 Buffer               12.0
2.5mM each dNTP mix.             9.6
10uM M13-Fwd (-20) primer        2.4
10uM M13-Rev primer              2.4
20% Tween 20                     0.6
Paq5000 polymerase               0.4
ddH2O                            93.0  (uL)
Total(approx.)                   120

プライマーの配列。
10uM M13-Fwd (-20) primer:GTAAAACGACGGCCAG
10uM M13-Rev primer:CAGGAAACAGCTATGAC 



チューブの数と試薬量 8tubes 12tubes 16tubes 24tubes 32tubes
10x Buffer 12 18 24 36 48
2.5mM each dNTP mix. 9.6 14.4 19.2 28.8 38.4
10uM M13-Fwd (-20) primer 2.4 3.6 4.8 7.2 9.6
10uM M13-Rev primer 2.4 3.6 4.8 7.2 9.6
20% Tween 20 0.6 0.9 1.2 1.8 2.4
Paq polymerase 0.4 0.6 0.8 1.2 1.6
ddH2O
Total(approx.)
93
120
139
180
186
240
278
360
371
480


あらかじめ空のPCRチューブをチェックするコロニーの数だけ用意し、ラベルしておきます。もしくは8連チューブや96ウェルプレート(場合によってはカットして)を使います。

ラベルの例。数字で書くのは手間なので線の長さで識別する。左上から1-8番、左下から9-16番。

爪楊枝の先でコロニーをつつき、続いて先ほどの新しいLBプレートを裏返してふたを開けの1番のところをつついて大腸菌のコピーを新しいプレートに作ります。そのまま爪楊枝を用意した1番のPCRチューブに入れます。

(表から見ると培地を通して番号が鏡文字で見えます。鏡文字を書くのがうまい人はあらかじめ裏に鏡文字で書いておくとこのときに数字がきちんと読めます。僕は面倒なので普通に書いてます。)

2番目以降のコロニーも同様に処理します。爪楊枝をずっとチューブにさしたままにしておくとどのチューブまで処理したかがわかって便利です。

コロニーのピックが終わったらチューブ内の爪楊枝の先をグリグリと何回かチューブの底に回転させつつ押し付けて大腸菌を付着させます。爪楊枝は捨てます。

あらかじめ調整しておいたPCR反応液を15uLずつ分注します。
このとき同じチップを使って分注すると大腸菌がチューブ間でコンタミしてしまう可能性があります。毎回チップを変えるとチップが無駄になるうえに時間がかかるので僕は以下のように分注しています。

200uL用ピペッター(いわゆるイエローチップのもの)を使って反応液を多めに(100-200uLくらい)吸い取りチューブ上でゆっくりと吐出して水滴状にします。途中で水滴がチップから離れて落ちるので上からチューブ内に落とし入れます。

チップを寝かせて水滴を作る。
このときチップを垂直に立てて水滴を作るのではなくチップを45度くらい寝かせて水滴を作るとちょうど15uLくらいの水滴ができます。コンタミを防ぐためチューブに触れないように上から水滴をチューブ内に落として全てのPCRチューブに反応液を分注します。(最後のチューブは反応液が少なくなりがちですが気にしません。)

分注が終わったらサーマルサイクラーにセットしPCR反応を開始します。

PCR条件は以下です。
(アニーリング温度と伸長時間は使用するプライマーとポリメラーゼの種類で変わってきます。以下はM13プライマーとpac5000ポリメラーゼの場合。)

1 cycle of
 95℃    5min.

35 cycles of
 95℃    30sec.
 52℃    30sec.
 72℃    x sec. (x = ターゲットの長さ [kb] x 30sec.)   

1 cycle of
72℃    5min.

hold at 4℃~10℃

終わったら電気泳動で目的の長さのバンドが増幅されたかどうかを確認します。(増幅される長さはベクター内のプライマーからインサートの端までの部分が含まれるのでインサートより少し長くなります。pBluescript IIのT-ベクターではインサート+230bpくらいです。参考リンク → T-Vectorを使ったサブクローニング)。

僕は多い時ではこの方法で48コロニーや96コロニーをチェックしています。きちんと目的のバンドを切り出してライゲーションを行えばここまで多くチェックする必要はありません。ほとんどの場合8コロニーで十分です。(参考リンク→ゲルからのDNAの切り出し

当たりのコロニーが得られたらコピーを作ったLBプレートから大腸菌を採取して液体培養しプラスミドを抽出します。プレートの培養時間が短いとコロニーがまだ見えませんが爪楊枝でつついた穴の周りには大腸菌が生えているのでその部分を白金耳等で触って液体培地につけて培養すれば翌日には十分に増えてきます。

得られたプラスミドを制限酵素処理やシークエンスにかけてインサートの最終確認を行いその後の実験に用います。

96コロニーのチェック。

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