Thursday, January 30, 2014

ゲルからのDNAの切り出し


複数の長さのDNAの混合物から特定の長さのものだけを分離したいときは電気泳動を行って目的の長さのバンドを泳動後のゲルから切り出して精製する必要があります。特に制限酵素処理後やPCR反応後に特定のDNAをプラスミドにサブクローニングしたいときなどはきちんと目的のバンドを電気泳動で分離して精製しておかないと目的外のDNAがプラスミドに入ってしまい実験がうまくいかないことが多々あります。

ゲルからDNAを精製する手順は結構手間なのですが急がばまわれ、面倒くさがらずにやりましょう。手順はおよそ次のようになります(タイトルの画像も参照してください)。

まずサンプルを電気泳動で分離します。新しいゲルを使いましょう。1レーン置きにサンプルをウェルにアプライします。連続したウェルで流すと左右のバンドが接近して切り出しがとてもやりづらくなります。

なるべく低電圧(ミューピッドだと50V)で泳動します。目的のバンドの長さにもよりますが1時間ほど泳動して分離します。定電圧で分離したほうがバンドがシャープになります。

エチジウムブロマイドやGelRedなどの染色液で15分ほど染色します。同じ泳動バッファーを繰り返し使用している人もいると思いますが、染色には未使用のバッファーを使いましょう。

染色している間に空の1.5mLチューブの重さを量ります。切り出すバンドの数だけチューブを用意します。

ゲルをUVイルミネーターで 光らせてバンドを確認し、外科用メス(個人的にはNo.10がおすすめ、上の図はNo.11です)やカッターでバンドの四隅を切ります。

ピンセットを使って切り出したゲルの断片を先程のチューブに入れます。全てのゲルをチューブに入れたらチューブのままゲルの重さを量ってゲルのみの重さを算出します。ゲルの重さに合わせてDNA精製キットの試薬を加えます。

後はキットの手順にそってDNAの精製操作を行います。ちなみに僕はTAKARAのNucleospinキットを使っています(簡単なのでお勧めです)。

UVイルミネーターを使ってゲル内のバンドの四隅を切り、更にピンセットでチューブに入れる操作はなるべく早く行う必要があります。あまり長時間DNAをUVに晒すとDNAが損傷してしまい、目的の断片がプラスミドに入らなくなるからです。

しかしサンプルが多くたくさんのバンドを切り出さないといけない場合はなかなか短時間で終わらせることができません。

今回は引き続き、切り出し操作を早く行うための便利グッズの紹介をします(前置きが長い通販番組っぽくなってきました)。

「今回ご紹介する商品は、FastGene社の”ゲルカッター”です!」

これまたそのものずばりの名前ですが、その名の通り泳動後のゲルから効率よくDNAを含むゲルを切り出して回収するための道具です。

日本ジェネティクスHPより

写真を見てもらえばあまり詳しい説明はいらないと思いますが、先端に長方形の空洞を持った細長いプラスチック製の道具で、先端を真上からゲルにあてがって、押し切りのような感じでゲルを切ります。先端の壁はやや鋭くなっているので(怪我をするほどではない)抵抗なくゲルがきれます。

切られたゲルはゲルカッター内にとどまるのでそのままチューブに入れ、後ろのピストンを押すことでゲルがチューブ内に押し出されて回収されます(ゲルを切った後少し手前や向こう側にゲルカッターを傾けるとゲルの下に空気が入るので持ち上げやすくなります)。

ゲルカッター
ゲルカッター先端。ゲルはこの中に嵌って切れる。
回収時はピストンがゲルを押し出す。

わざわざバンドの四隅を慎重に狙ってメスで切っていく必要がなくなるため切り出し操作がとても早くなりDNAへのダメージが少なくなります。また本製品は同じ大きさでゲルを切り出してくれるのでゲル断片ごとの重さのバラつきがなくなります。

同じゲルから切り出した断片は基本的に同じ重さになるので、1つのゲル断片を代表して秤量し他のゲルは同じ重さとすることができます。メスで切り出すと必ずゲル断片ごとに重さがばらつくので全てのゲル断片を秤量する必要があるため例えば10個のバンドを切り出す場合には10本の空チューブを秤量→切り出し後再び10本のチューブ(ゲル入り)を秤量、ということをしないといけませんが本製品を使えばチューブ1つだけの秤量x2回でいいのでここでも余計な手間が省けます。

またUVイルミネーターで切り出しを行う際にゲルの下にラップを敷いて行っている場合はラップを破いてしまうことが少ないのでイルミネーターを汚す機会が減ります。

僕が行っている手順は以下の通りです。(Nucleospinを使った精製方法も合わせて説明します。)

チューブを1本だけ秤量しておく。

こんな感じでゲルカッターをチューブに刺しておき、染色したゲルとともにUVイルミネーターへ。

イルミネーターでバンドを光らせながらゲルカッターで1つずつバンドを切り出し元のチューブへ戻す。この時点ではゲルをチューブ内に押し出す必要はない(それよりも素早く次のバンドの作業へ移ることが大事)。

2つ目、3つ目のバンドも同様に切り出してゲルカッターごとチューブへ入れていく。

全てのバンドの切り出しが終わったらイルミネーターを片付け実験台へ。

ゲルをチューブ内に押し出して回収。最初に秤量したチューブのみを再秤量しゲルの重さを算出。
全てのゲルを同じ重さとします。

(ここからはNucleospinの説明です)

ゲル断片にBuffer NTを加えておよそ100mgに調整します(例えばゲルが75mgだったら25uLのNTを加えます)。ちなみに ミューピッドのゲルトレイで作成したゲルならばゲル断片が100mgを超えることはありません。

更にBuffer NTを200uL (0.7%ゲル使用時)または400uL(2%ゲル使用時)加えます。
(一つ前の操作でもBuffer NTをゲルに加えるので始めから合わせて225uLや425uLのBuffer NTをゲルに加えると操作が簡略化できます。)

50℃で10分間温めてゲルを溶かします。(2~3分毎に軽くボルテックスで混ぜます。振盪機能付きのヒートブロックなどを使っている場合は1000rpmで混ぜ続ければボルテックスの必要はありません。)

Nucleospinカラムに溶解したゲル溶液をアプライし、付属の遠心用チューブにセットして11,000xgで1分間スピンします(室温で良い)。カラム内のメンブレンにDNAが吸着します。

チューブに溶出してきた液体を捨て、Buffer NT3 (Wash Buffer, エタノール入り)を650uL加えて再び11,000xg 1分間スピン。(Nucleospin付属のプロトコールでは750uLのBuffer NT3を加える事になっていますが、エタノールが入っているためピペッターの目盛りより多く加えることになってしまい蓋を閉めた時にバッファーが溢れます。ピペッターを650uLに設定すれば溢れないくらいのちょうど良い量が測れます。)

溶出した液を捨て、カラムを空のまま11,000xgで2分間スピン。(ここで余分な液体が取り除かれNucleospinカラムのメンブレンが乾く。)

カラムを新しいチューブにセットし15~50uLのBuffer NE (溶出液)を加え(カラム内のメンブレンに直接溶出液がかかるように)、1分間放置した後11,000xgで1分間スピンします。

チューブにDNAを含む液が回収されます。クローニングを行う場合はプラスミドとのライゲーション反応へ進みます(参考リンク→: ライゲーション)。

以上ここまでの過程が電気泳動の時間と合わせて大体2時間以内で終了します。切り出しは面倒ですが、やるとやらないとでは結果に大きな違いが出てきます。クローニングを行う場合は急がばまわれで必ずやりましょう。

[追記:ちなみに本当に時間がない、面倒くさい、という人はゲル断片の秤量も省いてBufferNTを250uL (0.7% ゲルの時) または450uL (2%ゲルの時) 入れて精製を始めればなんとかなります。僕も最近は秤量をやめました。]

今回紹介した道具やキットなどを使えば迅速にストレスなく実験を進めることができます。研究室の先生にねだってみるのもよいでしょう。

何故かゲルカッターは年中キャンペーン価格です。日本ジェネティクスのパンフレットをチェックしてみてください。

ではみなさま、快適な切り出しライフを!

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